WBC世界フライ級22位升田貴久(30=三迫)が、究極のアウェーで世界初挑戦する。タイ・チェンマイで28日に暫定王者ポンサクレック・ウォンジョンカム(32=タイ)に挑戦することが17日、都内のジムで発表された。6月に判定負けを喫し、一時は引退も考えた升田は7月末にオファーを受け、今月に入って初めてパスポートを取得した。初の世界戦が海外で、しかも日中に屋外で行われる。さらに時間が足りず、スパーリングも回避するという厳しい条件で、王者に挑む。

 三迫会長が期待を込めて言った。「降ってわいたラッキーな世界戦。こういうときはチャンス」。WBC世界6位だった升田は、6月に日本6位の小林に判定負け。WBA王者デンカオセーンに挑戦をもくろんでいたが、一気に22位へ降下。升田は「引退がよぎった」と言う。そこへポンサクレックからオファーが届き「ボクシングは世界を目指して始めた。一気にやる気になった」と話す。

 舞台裏もドタバタだった。WBCは15位までは無条件で、20位以内は承認があれば世界挑戦できる。22位は圏外だが、JBCが「下がりすぎ」と抗議。これを受け、WBCは22位ながらも実力はあるとし、世界戦を承認した経緯があった。

 升田は過去31戦でサウスポーとは2戦(1勝1敗)だけ。スパーリングでサウスポー対策が必要だったが、オファーを受けてから試合まで1カ月と時間が足りず、スパーリングはせずにマスボクシングにとどめた。3週間で体重は8キロ落としたが、リミットまではまだ4キロある。

 しかも「遊びに行ったこともない」という海外。さらに熱狂的観客が詰め掛ける真夏のタイで、日中での屋外戦となる。相手は17度防衛の経験のある大ベテラン。「いまさら自分の形を変えられない。あれこれ考えずに、開き直っていける」と升田。四面楚歌(そか)とも言える一戦で、強打の王者へアウトボクシングに活路を見いだす。【河合香】