<プロボクシング:WBA世界スーパーバンタム級王座戦>◇1月31日◇東京・有明コロシアム

 挑戦者の同級6位下田昭文(26=帝拳)が、世界戦初挑戦でタイトルを奪取した。王者李冽理(28=横浜光)を強打の左ストレートで序盤から追い込み、3、5、8回にダウンを奪った。相手にパンチの的を絞らせない守備とカウンター狙いの一撃で12回判定の3-0で圧倒した。下田はプロ戦績を23勝(10KO)2敗1分けとした。

 鮮やかな左だった。3回。下田が必殺のフックをアゴにさく裂させて、先制のダウンを奪った。ゴング間際には右カウンターでダウンを喫す。4回には右まぶたを切って流血も「ぼやけたが、心は常に前と思った」と攻め続けた。

 5回も狙った左で2度目。8回にはスリップ気味も3度目のダウンを奪う。「流れが向いている」と攻め続け、ついにベルトをつかんだ。2人のジャッジが9ポイント差の快勝だった。

 試合で初めて泣いた。「たまたま帝拳に入ったけど、運命だった」と喜びを表した。5つの高校受験に失敗した02年2月、なんとなくジムを2つ見学。自宅に近いと帝拳を選んだが、腰パンで左耳にピアス。アマ出身者が多く高校6冠の粟生らエリートぞろいの中で異彩を放った。誰も長続きするとは思わなかった。

 葛西トレーナーの勧めでアマの試合に出てプロに転向した。8回戦までロードワークはしなかった。本田会長の厳しい指導には「なんでそんなに怒るんですか?」と真顔で言う。会長は「前は右から左で聞いても1割。今回はそれが5割にはなった」と笑う。

 当初はこの1年鍛えて、同じ階級の西岡の後釜にという方針だった。急きょオファーを受けると、それが急成長につながった。葛西トレーナーは「今回はようやく距離を考え、シャドーも真剣にやるようになった」と話す。800メートル走は断トツなどフィジカルではジムでもトップ。セコンドの指示も「自由にやれ。拳に魂込め、あとは気持ち」。天性の、野性のままのセンスで頂点に立った。

 天然ぶりも変わらない。グアムキャンプで初めての海外も、下田は紙袋1つで成田空港に現れた。会長にもただ1人気さくに話し掛ける。日焼けサロンに通う下田。夏にはゴルフ好きの会長が真っ黒になると「会長も日サロに行ったんですか?」といった具合だ。

 勝負がほぼ決していた最終12回も攻めた。「アウトボクシングは格好悪い。自分の感性でいった」と。まだまだ強くなる伸びシロがある、名門帝拳に異色の世界王者の誕生。次の目標を聞かれると「男らしく強く。背中を見せられるようになりたい」と、下田節で締めた。【河合香】