<プロボクシング:50キロ契約8回戦>◇5日◇東京・後楽園ホール

 大みそか世界戦が見えた!

 高校生初のアマ7冠の怪物・井上尚弥(19=大橋)が、プロ2戦目もKOで快勝した。タイのライトフライ級王者ガオフラチャーン・チューワッタナ(35)を、下がりながらの左フックで1回1分50秒にKOした。デビュー戦の東洋太平洋ランカーに続きタイ王者にも快勝。大橋秀行会長(47)は、来年を見据えていた世界挑戦を軌道修正。今年大みそかにも、世界戦の実現を示唆した。

 一発のパンチが怪物のすごさを証明した。1度ダウンを奪った井上は、148センチのタイ王者の動きを見切っていた。相手を誘い込むようにバックステップを踏む。ガオフラチャーンが飛び込むように放った右のパンチを鼻先でかわして、下がりながら強烈な左フックをたたき込んだ。もんどり打って倒れた相手に、試合続行は不可能だった。

 試合後、井上は観客に早すぎるKO勝ちをわびた。「せっかく足を運んでもらったみなさまに申し訳ない気持ちです」。それでも、大橋会長は興奮していた。「内容的には100点満点。この流れでいくと、大みそかに何かあるかも」と、大みそかでの世界挑戦に言及した。

 これまでは、今年中に日本、東洋太平洋タイトルを獲得。段階を踏んで来年にも世界挑戦という青写真を描いていた。しかし、デビューから2戦連続KO勝ち。さらに練習では世界王者経験者を圧倒する姿に、確信を深めた。

 大橋会長は、すでに次の対戦相手を世界ランカーに絞って交渉中。さらに、日本タイトル戦への交渉も進めている。井上には、WBA世界ライトフライ級王者井岡一翔(23)の持つデビューから7戦目の日本人最速世界挑戦記録もかかる。大橋会長は「彼に記録うんぬんは必要ないが、必然的に記録になっちゃう可能性がある」という。

 井上は、世界挑戦についてトレーナーでもある父真吾さん(41)のゴーサインを条件とする。その真吾さんは「3、4戦目を見てから」と話したが、その成長を認めている。この日のKOパンチも、高校3年の9月に出場したアマチュアの日韓戦で、韓国代表選手を開始15秒でKOした同じパンチだった。「あのパンチはずっと練習している。プロに入ってさらに進化した」と目を細めたように、ゴーサインは近い。

 「2013年にしっかりした形でタイトルを取りたい」と宣言した井上が年末に腰に巻くベルトは、世界王者のベルトかもしれない。【桝田朗】

 ◆井上尚弥(いのうえ・なおや)1993年(平5)4月10日、神奈川・座間市生まれ。元アマ選手の父真吾さんの影響で小学1年からボクシングを始める。相模原青陵高1年時でインターハイ、国体、全国選抜と3冠達成。3年時に国際大会プレジデント杯、全日本選手権を制覇するなどアマ7冠。アマ通算75勝(48KO・RSC)6敗。昨年7月にプロ転向。163センチの右ボクサーファイター。家族は両親と姉、弟。