<プロボクシング:WBC世界バンタム級タイトルマッチ12回戦>◇8日◇東京・両国国技館

 WBC世界バンタム級王者の山中慎介(30=帝拳)が元世界王者に3連勝で3度目の防衛に成功した。同級1位マルコム・ツニャカオ(35=真正)から3回に2度のダウンを奪取。最終12回には左ストレートから3連打で1分57秒TKO勝利を飾った。ロンドン五輪ミドル級金メダルの村田諒太(27)が観戦。プロに転向する高校の後輩の目の前で手本を示した。山中の戦績は18勝(13KO)2分けとなった。

 使命感だけだった。利き手の左拳は打撲で痛みが発生していた。最終12回。ポイントもリードしており、陣営もゴーサインは出していない。それでも、山中は「行こう」と開始から攻勢に出た。ハーフタイムが過ぎると、左ストレートから右、そしてとどめの左ストレートで元世界王者をキャンバスに沈めた。

 「神の左」と形容されるパンチが序盤からさく裂した。同様に強烈な左を武器にする元世界王者ツニャカオを恐れることはない。3回、相手の左が繰り出された瞬間に、鮮やかな左カウンターをたたき込む。最初のダウンを奪うと、立ち上がった相手に連打から2度目のダウンを奪取した。その後は相手の一発だけを警戒してペースを渡さない。最終回のKOに「ちょっと遅かったけどKOで締められて良かった」と安堵(あんど)したように言った。

 合言葉は「首」だった。試合に向けての練習、この日のリング上でも、陣営から「首、首」との声が飛んだ。力んで上半身を硬くしてしまう悪癖がある。強打のツニャカオ相手だけに、普段よりガードは高く、力む可能性も高まる。大和心トレーナー(37)は「首を振らせて常にリラックスさせた。力を抜くと、腕がしなって、ヤリのようなパンチになる」と証言した。逆に力を抜いたことが「神の左」を呼び込んでいた。

 「これぞプロ」の試合をするつもりだった。京都・南京都高ボクシング部の後輩で五輪金メダリストの村田が観戦に訪れていた。プロへの転向を決断した後輩。自身も高校までアマチュアを経験してきた。技術力の高いアマの良さもわかっているが、ヘッドギアなしで、3回戦ではなく12回戦の過酷なプロの戦いの迫力を伝えたかった。試合後のリング上で「村田君、見ましたか~」と満足そうに声を掛けた。

 昨年4月の初防衛戦では元世界2階級制覇王者ダルチニャンに判定勝利、同11月のV2戦では元WBC世界スーパーフライ級王者ロハスを7回KO。そして、この日は12回TKOと、元世界王者に3連勝でV3の偉業を達成した。今後は、この日観戦に訪れた同級3位亀田和毅(21)、WBA同級王者の興毅(26)との王座統一戦と夢が広がる。「神の左」で防衛を重ね、後輩の村田に知名度で追いつくことが目標。もうただの世界王者ではない。金メダリストより知名度のある世界王者になる。【田口潤】

 ◆山中慎介(やまなか・しんすけ)1982年(昭57)10月11日、滋賀・湖南市生まれ。南京都高1年でボクシングを始める。3年時の国体で習志野高1年の粟生隆寛を破って優勝。専大ボクシング部で主将を務めた。06年1月、高橋仁戦で6回判定勝ちでプロデビュー。10年6月、日本バンタム級王座を獲得し、11年3月に岩佐亮佑を10回TKOで倒して初防衛に成功。同年11月、エスキベル(メキシコ)とのWBC世界バンタム級王座決定戦に勝って王座獲得。家族は沙也乃夫人と長男豪祐君。身長171センチの左ボクサーファイター。