平幕同士の一番で、判定に会場がざわついた。東前頭7枚目豊ノ島(32=時津風)が攻め立て、西前頭6枚目隠岐の海(30=八角)が土俵際で下手投げ。逆転したように見えたが軍配は豊ノ島。物言いもつかなかった。両者とも困惑したが、審判長を務めた井筒審判部副部長(元関脇逆鉾)は「流れ的には豊ノ島」との見解を示した。テレビ中継では何度もスロー映像が流れるなど、後味の悪い結末となった。

 珍しい光景だった。土俵に倒れた豊ノ島は「クソッ!」と悔しがり、隠岐の海はそんきょして勝ち名乗りを待った。だが、行司の木村晃之助はクルリと背を向け、豊ノ島を呼び上げた。5人いる審判から物言いもつかない。キョトンとした表情の豊ノ島は、あわててそんきょし、懸賞を受け取った。「よく分からなかった」。その言葉が、両者の心境を表していた。

 取組は豊ノ島が攻勢で、もろ差しになって土俵際へ追い込んだ。だが右を巻き替えた隠岐の海が下手投げ。隠岐の海の足が出るより先に、豊ノ島の右肘が土俵に付いたようにも見えた。一番近くで見ていた粂川親方(元小結琴稲妻)は、手を挙げなかった。「(入門)15年目なんで、こんなことがあってもいいのかな」と話した豊ノ島に対し、5連勝を逃した隠岐の海は「粂川親方が見てたんですよね? 勝ったと思ったんですけど、自分より近い親方が見てたから、しょうがない」。テレビ中継で解説を務めた舞の海氏は「蛇の目の砂も飛んでませんよね。これは最低、取り直しでも良かった」と指摘した。

 これに対して、井筒親方は、こう見解を示した。

 「際どいんですけど、豊ノ島が攻めていたので分があった。粂川親方も目の前にいたし、誰も手を挙げなかったので、これでいいのかなと思いました。流れ的には豊ノ島が有利。テレビで見るのと、ライブで見るのとは違う。僕は豊ノ島が勝ったと思った」

 ビデオ判定の導入で、判定は明確になった。一方で、大相撲には流れを重視する見方もある。5人の審判の意見は一致していた。

 隠岐の海は「明日頑張ります。勝負は勝負」と、必死に気持ちを切り替えた。明暗が分かれたこの勝負。後味の悪さが残ったことだけは、はっきりしている。【桑原亮】