大関稀勢の里(30=田子ノ浦)が“望み”をつなげた。横綱白鵬を逆転の突き落としで撃破。自力の目はないが、逆転優勝へかすかな可能性を残した。横綱審議委員会は今場所後の綱とりには否定的だが、日本相撲協会内には12勝すれば優勝を逃しても昇進させたい声もあるという。全ては千秋楽の一番に懸かってきた。

 望みを、最後まであきらめない。その思いを体で示した。2度目の立ち合い。稀勢の里は白鵬の攻めに後退した。土俵際まで詰まる。だが左に動き、体の流れた横綱を上から突き落とした。左足1本を残し逆転勝ち。「最後だけですね。良かったです」と大きく息をついた。

 初優勝の望みをかすかに残した。二所ノ関審判部長(元大関若嶋津)は取組前に「11勝になったら(綱とりは)振り出し」と話していた。継続すらできなくなる危機。朝には「ここで気が抜けた相撲を取るのも、もったいないですから」と切れかけた心を自ら奮い立たせた。右足親指にけがを抱えているとはいえ第一人者の横綱の壁を、破った。

 絶望的だった綱とりの望みも、にわかに再燃し始めた。横審の守屋委員長は3敗目を喫した時点で、今場所後の綱とりは厳しいと示した。だが、審判部は千秋楽に昇進問題について臨時会議を開くことを決めた。友綱審判部副部長(元関脇魁輝)は「優勝しなくてはいけない」としたが、協会内にはここ3場所の安定感を評価し、12勝すればたとえ賜杯を逃しても昇進させてもいいのでは、という声がある。二所ノ関審判部長は決定戦に出た場合について聞かれて「それも考えられる。千秋楽を見てからだね」と答えた。

 結末は、どんな形で迎えるのか。すべては千秋楽で7勝7敗の豪栄道に勝たなければ始まらない。「しっかり出し切っていく」。稀勢の里の望みは、勝つこと以外にない。【今村健人】