発表から約80年たって、今年ブームになった小説「蟹工船」が俳優松田龍平(25)主演で映画化されることが11日、分かった。メガホンを取るのは「疾走」などで知られるSABU監督(43)。労働者たちの闘いが現代にも通じる物語であるととらえ、あえて時代を特定しない設定にし「ポップな『蟹工船』にしたい」としている。今月末クランクインし、来年公開予定。海外配給も視野に入れている。

 プロレタリア(労働者階級)文学の筆頭にあげられる小林多喜二原作の「蟹工船」は29年に発表された。オホーツク海でカニを取り加工まで行う船を舞台に、労働者たちと雇用者側の闘いを描いた。小林の没後75年の今年、新聞などで取り上げられたことで見直され、今年だけで60万部を売り上げた。53年に山村聡さん監督、主演で映画化された以外は映像化されていない。

 原作には特定の主人公がいないが、映画では、他の労働者に蜂起を呼び掛ける男、新庄を松田龍平が演じる。リーダーになれるカリスマ性があると、起用された。松田は「SABU監督と蟹工船をやれることをとても楽しみにしています。おもしろい映画になると思います」と話している。また、労働者を監督する浅川役は西島秀俊が演じる。

 労働者階級の闘いを描いた同作は、格差社会と言われ失業者があふれる現代に通じる部分がある。しかしSABU監督は、声高に問題を叫ぶ作品にはしない意向で「テーマはきちんと描きますが、説教くさくはしたくない。エンターテインメントで、ポップな『蟹工船』になると思います」と話している。

 また、今年に入って起こったブームよりも、船という密室で物事が進む設定に魅力があったと言う。「蟹工船というとっても変な船で巻き起こる珍騒動。設定がまずおもしろいと思いました。原作を読んですぐに映像が思い浮かびました。ブラックユーモアたっぷりに描きます」。

 さらに、時代設定を明確に特定しないことも特徴になる。船内の寝床はカプセルホテルのようでいてタコつぼのようになる。美術や衣装にもこだわり、ポップな雰囲気を強調するという。船の揺れもCGも使ってリアルに表現する。SABU監督作は国際的にも評価も高く、今作も海外映画祭なども視野に入れている。