パーカーにジーンズ姿の監督が深々と頭を下げ、終映後のあいさつをした。劇場やホールで行われる披露試写会ではない。わずか30人余りのマスコミや劇場関係者を対象にした社内試写会では異例の光景だった。
監督は紀里谷和明さん(47)。04年に往年のテレビアニメ「人造人間キャシャーン」を実写化した「CASSERN」でデビューした。先日、上映されたのは3本目となる新作「ラスト・ナイツ」(11月公開)だった。
拍手や歓声も上がる一般試写会と違い、関係者向けではたいてい冷めた空気が漂っている。善かれあしかれ、1日に何本も映画を見る批評家や記者の称賛のハードルは高い。悪く言えばスレている。ハードルの決して高くない私のような人間でも、手放しの称賛ははばかられる雰囲気がある。そこに飛び込むにはそれなりの勇気がいるはずだが、監督に物おじする様子はなかった。
「作品の見方はいろいろだと思いますが、僕みたいな人間でも、これだけのキャスト、スタッフを集める作品が出来るんだということを若い人たちにも知ってもらいたかった」
クライブ・オーウェン、モーガン・フリーマンという英米の一線俳優を主軸に据えた大作をものにしたという高揚感がかすかにうかがえたが、物腰は柔らかい。澄んだ声には心に染みいるような効果があり、歌手・宇多田ヒカル(32)の元夫という目で見ると、確かにいい男だ。
会場のギャガ試写室は青山通り沿いにあり、試写室の扉を開けるとすぐに歩道という作りだ。あいさつを終えた監督は歩道に立って、来場者を見送ってくれた。
この日まで抱いていたイメージを覆される思いだった。実は紀里谷さんの第1作「CASSERN」にはもうひとつ入っていけなかった。米国でミュージック・ビデオを撮ったり、アート・ディレクターとして活躍した才気が勝ちすぎていたような気がした。凝った映像に驚くばかりで、あまり内容が入って来なかった。作品はその人を映しているのだろう、と勝手に近寄りがたい芸術家肌を想像していた。
「忠臣蔵」を架空の封建国家に移して描いた今作はむしろオーソドックスな娯楽作品だ。映像へのこだわりはそのままだが、色調を押さえ、中世の絵画のように美しい。アクションにも工夫があり、オーウェンとフリーマンの演技にも熱がこもっているのが伝わってきた。楽しめた。
紀里谷さんの経歴をあらためて見ると、中学の時に単身米国のアートスクールに飛び込んで以来、その行動力には目を見張るものがある。今回も国籍を超えたスタッフ、キャストに囲まれ、5年かけて完成にこぎ着けたエネルギーは想像を超えている。次の作品もきっとグローバルなものになるのだろう。【相原斎】




