今夏、全米公開された娯楽大作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」が、来年のアカデミー賞候補に急浮上して話題になっています。同作はメル・ギブソン主演で1979年に製作されたカルト的人気を誇るアクション映画シリーズの30年ぶりとなる新作。荒廃した近未来を舞台に妻子を殺された主人公の壮絶な復讐劇を描き、シリーズ化された人気作ですが、今作はギブソンに代わり「ダークナイト ライジング」などで知られるトム・ハーディが主演。同シリーズの生みの親であるジョージ・ミラー監督が再びメガホンをとり、オスカー女優シャーリーズ・セロンや1作目で暴走族のボスを演じたヒュー・キース・バーンら豪華な顔ぶれが集結して大ヒットしました。

 ハリウッドは12月に入ると賞レースが本格化し、アカデミー賞の前哨戦といわれる各賞が毎週のように発表されます。しかし、「マッドマックス」のようなアクション大作は例年、賞レースではまったく注目されないのが常ですが、今年はアカデミー賞前哨戦レースの皮切りとなるナショナル・ボード・オブ・レビューで、いきなり作品賞に選ばれたのです。本命不在といわれる今年のアカデミー賞レースですが、それでも夏に公開された娯楽大作が賞レースに名を連ねるのはとても珍しく、驚きの賞レースの幕開けとなりました。

 その後もロサンゼルス映画批評家協会が選考するLA批評家協会賞でミラー監督が監督賞を受賞するなど撮影賞、プロダクションデザイン賞の最多3冠を獲得。おしくも作品賞は逃しましたが、ボストンの新聞記者の活躍を描いた実録サスペンス「スポットライト」に次ぐ次点に名を連ねています。10日に発表されたハリウッド外国人記者協会が主催するゴールデン・グローブ賞でも作品賞、監督賞の主要2部門にノミネート。また、世界各国の映画批評家の投票で決まる国際批評家連盟賞も受賞しているほか、ボストン映画批評家賞では編集賞に輝くなど、2015年の賞レースにおいて怒涛の快進撃を続けています。それ以外にも9月にはスペインのセバスチャン映画祭で最優秀映画賞を受賞し、英エンパイア誌が選ぶ「今年の映画ベスト20」でも堂々の1位を獲得するなど、本年度のアクション最高傑作と評される本作の勢いは止まりません。

 今年は「スター・ウォーズ」シリーズ待望の新作「フォースの覚醒」が18日に公開されますが、ロサンゼルスで14日に行われたワールドプレミアまではマスコミや選考委員向けの試写を一切行わない方針を貫いたことから、各賞の選考委員が事前に観ることができなかったために多くの賞で選考の対象外となりました。そのため、今年の賞レースの大作では「マッドマックス」の一人勝ちとなり、配給するワーナーブラザースも本作を来年発表されるアカデミー賞作品賞候補作として推していると報じられています。1月14日に発表されるノミネーションで候補入りすることが期待されていますが、映画芸術科学アカデミーの会員による投票で決まるアカデミー賞は排他的で知られ、この手の娯楽作品は軽視される傾向が強いので、どこまで食い込むことができるのか発表が楽しみです。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)