「黒」と言えば悪いイメージに使われることが多い。陰険で意地の悪い人のことを「腹黒い」。裏で悪だくみするのが「黒幕」。最近では、違法な長時間労働で従業員を使いつぶす会社を「ブラック企業」と呼びます。

 大阪市の学校法人「森友学園」が小学校用地として大阪府豊中市の国有地を格安で取得した問題が発覚するきっかけとなった「黒」がありました。地元の豊中市の木村真市議(52)が情報公開請求した問題の土地の公文書は「黒塗り」だらけでした。

 土地は阪急宝塚線庄内駅から徒歩約10分。すぐ北側には名神高速道路が走っています。面積は8779平方メートル。昨年6月、森友学園は学校用地として1億3400万円で取得しました。道を挟み隣接する国有地(9492平方メートル)は10年に豊中市が14億2300万円で取得しています。

 森友学園が取得した土地は豊中市よりも、やや狭い程度。隣接する土地にもかかわらず森友学園の取得価格は豊中市の所得価格の約10分の1。超のつくディスカウント価格でした。しかも森友学園が取得した土地は豊中市が防災公園として整備しようと国に貸与を打診していました。

 「あの土地は伊丹空港の騒音の問題があり、豊中市と国が一体になって事業を進めてきました。豊中市が公園として使いたいと頼んできたのに国から突然『土地を買ってくれ』と。豊中市は財政的に厳しいため、予定の半分の土地を購入しました。泣く泣くあきらめた土地がどういう使われ方をするのか。すごく気になっていました」

 一昨年、市民から木村市議に情報が入ってきました。「問題の土地に囲いができ、工事が始まったようだ」。現地に行くと「壁に何枚か小学校の児童募集のポスターが貼ってあった。ポスターには教育勅語が書いてあった。これはエライ、小学校やで…。母体を調べてみると、愛国主義・軍国主義的な教育を目指している森友学園でした」。

 権利関係を確認するため急いで登記簿をとると、工事が始まっているのにもかかわらず、登記簿の所有者は運輸省(現・国土交通省)のまま。国有財産の処分を決める財務省近畿財務局に問い合わせると「定期借地権付きで貸しています」。ただ賃料を尋ねても「答えられない」の一点張りでした。

 木村市議は近畿財務局に行政文書の情報公開請求をしました。最初に公開請求したのは「貸付合意書」。

 「黒く塗りつぶされていて条文に何が書いてあるかすらわからない。保証金とか金額のたぐいもすべて黒塗り。森友学園の名前まで塗りつぶされていた。これを見たときに確信しました。絶対に何かある。こんなこと隠すなんて普通はありえへんやろ。国有地は国の財産、つまりは市民の財産。こんなアホな話はないわ。これは絶対におかしい」。

 「黒塗り」に疑念は膨らみました。「土地を購入したらしい」。昨年9月に「売買契約書」の情報公開請求をすると、買受人として森友学園の名義はありましたが「売買代金などは真っ黒けでした」。近畿財務局が売却額などを非公表としたからでした。

 今年2月、木村市議は非公表とした近畿財務局の決定の取り消しを求めて大阪地裁に提訴。この取引の不透明さが報道されると、近畿財務局は一転、金額を公表しました。

 「ふざけるな!」。木村市議の怒りは収まりません。提訴を取り下げるつもりはありません。森友学園問題を巡っては、次々に疑惑が発覚しています。10日には森友学園が急転直下、小学校設置の申請を取り下げ、籠池泰典理事長は理事長退任を表明しました。

緊急記者会見で籠池氏は「豊中の市議会の方が出してこられたこと(情報公開請求)が導火線になりましたね」と苦渋の表情を見せました。

 あれだけ開校に強い意欲を示していたにもかかわらず、なぜ突然、幕引きをするのか…。なにか、ふに落ちない。そう思うは私だけではないでしょう。

 はたして「黒幕」はいるのか。どれだけ闇は深いのか。やっと「黒塗り」がはがれてきたばかりです。【松浦隆司】

	森友学園が4月開校を目指していた小学校の児童募集ポスターについて説明をする豊中市の木村真市議(撮影・松浦隆司)
森友学園が4月開校を目指していた小学校の児童募集ポスターについて説明をする豊中市の木村真市議(撮影・松浦隆司)