百戦錬磨のベテランも、荒ぶるのが開幕戦というものか。
3月7日。J1仙台が、山形との東北ダービーに完勝し好スタートを切った。今季から初めてJ担当となり、キャンプから取材を続けているが、チームは明るく前向きな選手ばかりでいい感じ。ダービー数日後、春の訪れを感じさせる練習場でも、祝福に訪れたサポーター、練習する選手たち、誰もが笑顔をこぼしていた。
その中で1人、猛省している選手がいた。
開幕戦で、Jリーグの今季「退場1号」となった元日本代表MF野沢拓也(33)だ。後半18分に相手選手にタックルを見舞ったとされ、2枚目の警告を受けた。仙台の司令塔として冷静で的確なプレーを、いつも頼もしく思っていたが、まさかまさかである。その時の表情は、キャンプ以来見たこともない、鬼気迫る戦う男の顔だった。
野沢は試合を振り返り「(プロ)15年間で初めて退場したよ。開幕した日に退場なんて、有給使うのが早すぎたね」と苦笑していた。J通算350試合以上に出場し、受けた警告は20枚以下。フェアプレー選手として個人的に表彰してあげたいぐらいだが「あの時、誰にも止められないくらい興奮していた」というからびっくりだ。ある関係者は「熱くなりすぎていたから、タク止まれー! って叫んでたけど、どうしようもなかった」と話し、他の選手たちも「あんな姿は初めて見た」と驚いていた。
開幕と重なった4季ぶりの東北ダービーで、異様な盛り上がりのホーム仙台のスタジアム。野沢は「あんなにお客さんが入ってくれてうれしかった。それは負けられないでしょう」。サポーターのためと、昨季14位からの挽回を目指す今季にかける思いが、ベテランを高ぶらせたのだろう。
イエローカードをもらうのは決してほめられたことではないが、野沢が見せた闘志がイレブンに乗り移ったのか、チームは10人対11人になってから2ゴール。若手選手の1人は「退場はいいことではないけれど、ああいう姿を見て、技術や力だけで勝てるわけじゃないと感じた。強い気持ちを持って戦っていかないといけない」と言っていた。シーズン最初の公式戦。普段はクールな男が見せた激しいプレーで、仙台は本当に戦う集団になったのだ、と思った。
もちろん本人は「いい大人になってあんなことしちゃいけない」と猛省し「迷惑をかけたとみんなに謝った。もう退場は絶対にしないから」と誓っていたから、担当としてはひと安心だ。野沢は18日のナビスコ杯ホーム横浜戦から復帰予定。開幕戦で火が付いた熱い男たちの戦いを、今季も東北の地から伝えて行ければ、と思う。
◆成田光季(なりた・みつき)1989年(平元)5月6日、東京都練馬区生まれ。5歳から始めた体操競技歴は15年。中学、高校時代に日本一を5回経験。明大から12年に日刊スポーツ入社。整理部1年半を経て、東北のアマチュアスポーツを中心に取材。15年から仙台担当。




