7月25日、川崎Fがホーム・等々力で清水と対戦した後のミックスゾーン(取材エリア)。清水のFWウタカが、川崎FのMF中村憲剛の元へ「ユニホームがほしい」とお願いにやってきた。試合終了後のピッチで交換しようと思っていたが、先にFW鄭大世が中村とユニホームを交換。チームメートに先を越され「ノー!!」と悔しがったウタカは直接、本人の元に交渉に訪れたのだった。

 中村が「クラブハウスに送る。約束するよ」と答えると、ウタカは「いつ送ってくれるんだい?」と畳み掛ける。ここまでくると、ある種の執念だ。「どうして、そんなに中村のユニホームがほしいのか」と尋ねてみると…。

 ウタカ リーグで一番いい選手だからだ。ボールも失わないし、チャンスをつくって、(イタリア代表の)ピルロみたいな選手。

 相手エースから、世界的ボランチの名を例に賛辞を送られ、中村は「うれしい」と笑みを浮かべた。

 試合は、清水がウタカの2発でリードするも、川崎FがDF武岡とFW大久保のゴールで逆転勝ち。同点弾、逆転弾をお膳立てしたのが中村だった。同点弾はFKから。逆転弾は縦パスが起点だった。特に逆転弾は、風間監督も「美しかった」と振り返るほど見事なパスつなぎ。中村がFW大久保に縦パスを入れた瞬間、MF田坂が左サイドを駆け上がる。大久保はダイレクトで田坂へ。田坂がドリブルで運び、ゴール前の大久保へ。大久保がしっかりネットに突き刺した。

 大久保も「あの得点は憲剛さんの縦パスで決まった」と話す。ゴール前には大久保だけでなく、FW船山も詰めていた。個人的にもゴールまでのスピードと過程を含め、今季の最高形だと感じている。相手にとって最も嫌な場所に危険な縦パスを配球する。目の前で中村のパスさばきを見たウタカが「ピルロ」と敬意を表するのもうなずける。

 中村は約束通り、すぐに贈呈用のユニホームを発注。8月頭に、メッセージを添えて清水のクラブハウスに送った。中村の元にもウタカのユニホームが届いた。本来は等々力での交換だったため、清水のアウェーユニホームが来ると想定していた中村だったが「清水のホームのユニホームが来ました(笑い)」。それもウタカのご愛嬌(あいきょう)。直談判の末、念願の「中村ユニホーム」を手に入れたウタカの感想は、清水担当の神谷記者がリポートしてくれると思います。

 ◆岩田千代巳(いわた・ちよみ) 1972年(昭47)名古屋市生まれ。菊里高、お茶の水女子大を経て95年入社。主に文化社会部で芸能、音楽を担当。11年11月、静岡支局に異動し初のスポーツの現場に。13年1月から当時J1の磐田を担当。15年5月、スポーツ部に異動し、主に川崎F担当。