J2で“事件”が起きている。J3から今季昇格した町田が第10節を終えて、首位に立っている。6勝3分け1敗で勝ち点は21。J2J3入れ替え戦で何とかJ2昇格を決めた小さなクラブの快進撃を誰が予想しただろうか。かつてJ2昇格初年度でJ1に上がったクラブはない。少し気は早いが、映画のようなシンデレラストーリーを期待してしまう。

 ただ、ある問題が発生している。このままの順位で終えても、町田はJ1に昇格できない。昇格プレーオフも出場権利がない。理由はJ1昇格に必要なライセンスを満たしていないため。満たすためには、2つの壁を越えなくてはならない。

 (1)スタジアム

 ホームの町田市立陸上競技場の収容人数は1万328人。J1クラブライセンスの到達基準には約5000席の増設が必要となる。1万5000人収容の設計図こそ、すでに作られているが、早急に増築工事を始められるかは別問題だ。

 (2)トレーニング施設

 J2ライセンスでは、練習場は人工芝でも構わないが、J1では天然芝と決められている。町田の練習場は現在、人工芝で、張り替えを施さなくてはならない。またクラブハウス内にトレーニングジムを用意するなど、その他にも基準をクリアする必要がある。

 J1クラブライセンスの申請期限は来月30日。その日までに実現可能な、計画案を示さなくてはならない。ただ問題は複雑で、クラブが予算を捻出すれば解決するものではない。スタジアムも練習場もクラブハウスも所有権は町田市。施設の整備には税金が使われることになり、行政の協力が不可欠となる。実現のハードルはかなり高い。

 もちろん基準は必要であると思う。93年の誕生からJリーグは、24年で目覚ましい発展を遂げてきた。10クラブで始まったリーグは、今やJ1~3を合わせて53クラブ。大きな混乱も起こらず、順調な成長曲線を描いてきた。その裏には綿密なルール作りが下支えとなった。

 ただ思う。厳格なルールは時に、小さなクラブの可能性を狭めてしまっていないか。ライセンスは「日本サッカーの水準向上」「経営安定化」などを目的とした手段のはず。だが手段の達成を求めるがゆえ、逆に目的から遠ざかっている事態も生み出しているのではないか。

 クラブの体力に合わない投資を余儀なくされれば、今後の補強、施設の維持などさまざまな部分に響く。昨季J2昇格1年目で一時首位に立つなど旋風を巻き起こした金沢も、昨季急きょJ1ライセンスを取得したが、今季はJ2最下位に沈む。必ずどこかにひずみは出る。町田の場合、今季の目標はJ2残留だった。J1ライセンスの取得は今季の構想の中になかった。それを無理してJ1ライセンスを取得しても、身の丈に合わない経営は、余計な出費を生むだけとなってしまう。

 ライセンスの基準達成にもう少し時間的、猶予を持たせるのもいい。小さな町クラブの夢物語の芽を、このまま摘んでしまうのはもったいない。【上田悠太】


 ◆上田悠太(うえだ・ゆうた)1989年(平元)7月17日、千葉県市川市生まれ。明大卒業後、14年に入社。文化社会部の芸能班に配属されTBSなどを取材。昨年11月にスポーツ部に異動し、サッカーを担当。高校時代は野球部で、2年春、夏と町田市の日大三(西東京)に敗戦(ともにベンチ外)。日大三の野球部員を見かけると、ちょっと悔しい気持ちになるが、応援もしている。