仙台の天才パサーが点取り屋に転向した今年。「もうひと花、咲かせたい」-。

 MF野沢拓也(34)が、4月24日の神戸戦(△2-2)で今季1号を決め、史上9人目となる13年連続ゴールを達成した。J1連続シーズン得点記録では、キング・カズこと横浜FCのFW三浦知良(49)らと肩を並べる歴代6位タイの大記録だ。

 脅威の集中力と爆発力で勝利に導く“天才”MF。昨季シーズン中に訪れた、移籍後初めての古巣鹿島戦(●2-3@カシマ)では先制点に加え、背後から迫る相手DFを一瞬で切りかわしゴールを決めるなど2得点。今季の古巣神戸戦では、神戸サポーターの大ブーイングを受けながらも一時同点弾を決めた。

 試合前「調子は良くない」と言いながら、リーグ先発2戦目にしてしっかりと結果を出した。試合に出る際は必ず「勝ちたいじゃなくて勝たないといけない」と臨む。その姿勢が長きに渡り、第一線で活躍できる理由のひとつだろうか。

 今年の8月には35歳を迎える。名門・鹿島で育ち、仙台は神戸に続きJ1で3クラブ目。14年夏に加入後、15年には仙台で通算350試合出場を達成した。「体力が全然ない。疲れることしかない」とは言うものの、ボールを扱うテクニックは他の選手と比較できないほど高度。小学生時代、日が暮れてもボールを蹴り続け「死ぬほど練習し」磨いた技術は衰えを知らない。細かな足技に関しては「自分にしかできない必殺技がある」らしいが、それがどれなのかも分からないほど、野沢がボールを扱う「技」は多い。

 そんなテクニシャンがプロ17年目となる今季、FW転向。リーグ29戦4得点だった昨シーズン後「もう1回、本気でサッカーしたい。もうひと花咲かせたいから」と言っていたのを思い出す。本気かどうかは分からないが。

 鹿島時代の05年にはFW起用で10得点をマーク。それ以来、サイドを中心にプレーを続けてきたが、ポジションを変え、心機一転の活躍を決心した。仙台ではこれまでサイドハーフ1本。「骨を埋める覚悟で(仙台に)来てるから」「鹿島で習ってきたものを生かして仙台にタイトルをもたらしたい」と言った時期もあった。たやすいことでないのは、誰より知っている。

 チームは14年から2年連続14位と低迷。今年こそ、と上位進出を目指すチーム状況や「仙台を勝たせるために」選んだFW転向。チーム最年長者となった今、自ら最前線に立ち戦う覚悟のようだ。

 「サッカーはひとりでするもんじゃないけど。シュートを打って得点し、勝利に導くのがサッカーの正解」。現在13位。FW野沢のゴールでどこまで引っ張り上げられるか楽しみだ。

 

 ◆成田光季(なりた・みつき)1989年(平元)5月6日、東京都練馬区生まれ。5歳から始めた体操競技歴は15年。中学、高校時代に日本一を5回経験。明大から12年に入社。13年から東北のアマチュアスポーツを中心に取材。15年から仙台担当。