みなさん、「6秒ルール」ってご存じですか? 

 6月18日のJ1東京-新潟戦に適用されたGKのルール。前半23分に、シュートのこぼれ球を拾った東京GK秋元が、ボールを持ったままの状態で6秒を超えたとして、ファウルを取られた。秋元だけでなく、東京DF森重主将を中心に主審に対して猛抗議。その間、ボールを奪った新潟FW山崎が間接FKを素早くリスタート。パスを受けたMF成岡に、そのまま先制点を決められた。

 国際サッカー評議会(IFAB)が制定するサッカーの競技規則には、第12条第2項で間接フリーキックが与えられる反則として「(ゴールキーパーが)ボールを放すまでに、手で6秒を超えてコントロールする」と明記されている。実際に映像で確認してみると、完全に6秒を超えていたのだが、この線引きが非常に難しい。なぜなら明らかに超えている場合でも、取られないケースがほとんどだからだ。

 このルールはあるようで、ないかのように扱われているから意外と知られていない。試合を見ていて「少し持ちすぎかな?」と思うような場面でも、主審は手で早くプレーするように促すことはあっても、流されているのが実情。とられれば試合の流れは切られ、しかも一転して攻守が入れ替わり、大ピンチを迎えてしまう。サッカー取材をしていてこれまで、実際にファウルをとられたことも、ましてやゴールにつながったことなんて記憶にはない。秋元自身、プロ生活で1度もないという。

 東京の城福監督も映像を確認し、一連のシーンについて「まず、長く持たないといけない状況だったということを反省しないといけない。あとは、クイックリスタートを簡単にさせたことが問題」と冷静に振り返った。ただ「世界のサッカーでも10秒以上持ってファウルを取られないことはよくある。6秒が厳格に常識化しているわけではない」と指摘する。

 そして不運な点を1つ同監督は挙げた。GKはボールを持ったとき、自分の後方に相手選手が隠れ、ボールを蹴るためピッチ上に置いた瞬間、かっさらわれてゴールを奪われるシーンがたびたび見られる。その対策として、1回転くるりと回って周囲を確認する。ただ今回は、秋元が回っていた後ろ向きのタイミングで、主審が手で促していた。同監督は「その点はアンラッキーではあった」と話した。

 かつては「4ステップルール(ボールを持ったら4歩以内に蹴る)」なんてものもあったが、00年に現行が施行された「6秒ルール」。スムーズに試合を運ぶため、時間稼ぎをさせないことが、込められているルールだと思う。だが、0-0で前半なかばの状況で、ホームチームのGKが時間を稼ぐ意図はなかったし、そもそも意味がない。

 この試合の主審は全体を通し、きわどい球際のシーンを見極め、激しいプレーも簡単にファウルにせず、見応えのある局面をつくっていただけに、このジャッジは本当に必要だったのか? と思ってしまう。「ルールだから」と言ってしまえばそれまでだが、ピッチの選手も、見ているファンも頭にはてなマークが浮かび疑問の残る1シーン。新潟の選手が試合後に「あれは正直、かわいそう」と敵ながら言った一言が、余計にそう感じさせた。

 ◆栗田成芳(くりた・しげよし)1981年(昭56)12月24日生まれ。サッカーは熱田高-筑波大を経て、04年ドイツへ行き4部リーグでプレー。07年入社後、スポーツ部に配属。静岡支局を経てスポーツ部に帰任。14年W杯ブラジル大会取材。6秒ルール適用された当時は大学1年。当時の先輩GKが、その意味とプレーの変化を力説していたが、16年後に目の当たりにするとは…。