サッカーへの鋭い洞察を皮肉とユーモアにくるんだコメントは健在だった。日本代表監督に就任しながら脳梗塞(こうそく)のため志半ばで退任したイビチャ・オシム氏(68)が静養先のクロアチアの保養施設で共同通信の単独インタビューに応じ、日本代表の将来や自らが描く理想の監督像、6年間を過ごした日本の風土や国民性などを思うがままに語った。3回に分けてお伝えする。(ボディツェ共同=戸部丈嗣)

 -いまの日本代表はあなたが監督当時から進歩したと思うか

 オシム氏

 普通に考えれば同じ選手たちなのだから、もっとコンパクトに速く、組織的にプレーしなければならない。選手がもっと自信を持ってプレーできることが重要だ。1度駄目だったらすぐいなくなるのではなく、観客と選手、選手と監督の間の信頼感が大事だ。

 -日本代表は中村俊、遠藤に依存し過ぎでは。千葉の選手はいなくなった

 オシム氏

 それは好みの問題だ。わたしが千葉の選手を選んだのは、練習内容などを知り尽くしていて、いちいちなぜそういう練習をするのか説明しなくて済むので楽だったからだ。中村俊、遠藤、中村憲。みんな素晴らしい選手で個人的な能力も高い。3人ともリスクを恐れず、即興性もあって、サッカーをよく理解していて、いつも新しいアイデアがある。彼らのような選手がいるのであれば、プレーさせなくてはいけない。むしろ、日本に欠けているのは、他の要素だ。センターバックで大きくて(ボールを)プレーできる選手。FWもクラウチ、ドログバのような選手。なかなかすぐには育たない

 -巻や矢野は。若年層の伸び悩みも気掛かり

 オシム氏

 矢野のプレーは美しい。欧州的で多く走り、よく戦い、そして前線からいい守備をする。巻とともに勇気があって戦うタイプで、ヘディングが弱い。でも、これはいつでも改善することはできる。日本代表は若い左利きの選手がいない。C・ロナウド(ポルトガル)のように速い選手はいない。(東京の)平山のような大きな選手も彼以外にはいない。すべての選手が平均的。才能のある選手は早い段階で新聞に取り上げられて、スターマニアが出て、早くスターになり過ぎて駄目になってしまう。選手が育つには長い時間が必要で、辛抱も必要だ。

 -日本が目指すべきサッカーは

 オシム氏

 日本は、バルセロナがやっているようにダイレクトにプレーできる。ただ、サッカーも学校のように勉強しなければならない。退屈だが、練習で何度も同じことを繰り返さなければならない。日本選手は技術的に弱い。多くの人は技術があると思っているが、ブラジル選手のようにボールを浮かせるとか、止めるとかは必要ない。サッカーはそれだけ速くなった。常にスプリントをして、ダイレクトでプレーしなければならない。

 -今後の日本代表に必要な選手は

 オシム氏

 闘莉王のようなセンターバックや、もっと若い現代的なGK。もっと速く考え、速くプレーすることが重要になる。高原はもう1度チャンスを与えられるべき選手だ。いまは苦労している。でも、それは自業自得だ。彼は自分でやろうとし過ぎた。それでうまくいかなくて自信を失う。槙野は大きくていい選手だ。攻撃的でジャンプ力があってゴールも決める。(次回に続く)

 ◆イビチャ・オシム

 64年東京五輪を含め、旧ユーゴスラビア代表で16試合出場8得点。86年から92年まで同国代表監督を務め、ストイコビッチらを指導した。90年W杯では8強入りを果たした。ギリシャやオーストリアのクラブを指揮した後、03年にJリーグ市原(現千葉)監督に就任し、同年は年間3位に躍進。05年にはナビスコ杯で初優勝した。06年に日本代表監督に就任したが、07年11月に脳梗塞(こうそく)で倒れ辞任。ことし1月にオーストリアに帰国した。68歳。ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボ出身。