前日本代表監督のイビチャ・オシム氏(67)が、早ければ来年にも監督に復帰する。4日、都内で日本サッカー協会アドバイザー就任会見に出席。昨年末に脳梗塞(こうそく)で倒れて以来、初めてオシム節を披露した。現場復帰について「ベンチに座りたいが、ベンチで死にたくもない」と冗談めかしたが、水面下で担当医師に現場復帰の許可を求めていることが判明。日本協会との契約が切れる来年以降、いずれかのチームで指揮を執る可能性が高まってきた。

 「語録」に込められる情熱に、変わりはなかった。JFAハウスで行われた、日本協会アドバイザー就任会見。オシム氏は約半年ぶりに、公の場で口を開いた。「日本のサッカーは、日本人自身によって良くなれる。それを生かしきれば、世界王者にもなれる」「選手はもっと走らないと。いいサッカーをするためには、もっと走る量を増やすべきだ」。熱のこもった提言が、祝福ムードの会見場に緊張感を走らせた。

 熱い言葉は、決して夢を捨ててはいない証拠だった。会見では日本代表監督復帰の意思を問われ「ベンチに座りたいという気持ちはあります。でもベンチで死にたくないという気持ちもあります。あまりスペクタクルではないでしょ?」と笑いを誘った。だが実はオシム氏は先月末、担当医師に監督復帰の許可を申し出たという。リハビリのさらなる進行を待つという形で、結局今回は判断を保留された。だが「代表監督」にこだわらないまでも、監督業への復帰を望んでいることが、明らかになった。

 そもそも現場への思いが、劇的な回復の原動力だった。生命の危機から一転、現在ではつえも突かずに階段も上り下りする。「復活できたのは、サッカーのおかげ。サッカーのせいで病院に運ばれたけど、サッカーの力で戻ってこれた。サッカーを見るということが、復帰の手始めだった」。都内の病院では1日に3、4時間もリハビリを続けた。筋肉を冷やしながら「南アフリカを目指している。選手としてね」と笑うこともあった。

 日本代表岡田監督への気遣いから、この日の会見では現場復帰の意思表明は避けた。口にしたのは、アドバイザーとしての仕事方針についてがほとんど。だがその中で「仕事の中には、引き続きより体を健康にする努力を続けること、つまりリハビリも含まれていると思う」とも。日本サッカーのためになるには、健康になって現場に立つことが一番-。そんな思いが、言葉ににじんだ。

 日本協会とのアドバイザー契約は今年いっぱい。それまでにはさらにリハビリが進み、医師から許可を取り付ける可能性は低くない。そうなれば、これまで指揮したすべてのチームに、劇的な変化をもたらしてきた名将のことだ。国内外から多くのオファーが集まることは確実となる。「(倒れた後も)私が何者であるかを忘れないために、サッカーの試合を見に行き続けた」とオシム氏。“生涯一監督”の決意を胸に、人生をかけて理想のサッカーを追い求める。【塩畑大輔】