◆INAC神戸MF伊藤美紀(21)

 「澤穂希最後の相方」は人知れず苦しんでいた。15年12月27日、皇后杯決勝。元なでしこジャパン澤穂希さんが現役最終戦で決勝ゴールを打ち込み、優勝をたぐり寄せる姿を伊藤は最も近くで見た。同じボランチでフル出場。幸せそうな笑顔で「飛躍の年でした」と思い出を振り返る。

 だが、約2カ月後に試練は訪れた。シーズン前の練習試合中に襲われた未体験の違和感。左膝半月板損傷の診断に「大丈夫かな…」と不安いっぱいになった。16年3月に経験した手術は人生初だった。復帰には約半年を要し、リーグ前半戦はスタンドで観戦。リハビリはグラウンド脇が定位置で、もどかしさと悔しさが押し寄せた。支えは手術前、澤さんから送られてきたメールだった。

 「起きることに無駄なことはないよ。起きたことには必ず意味があるから」

 趣味の映画観賞では恋愛系の作品を好み「怖いのは無理。サッカー選手って職業も当てられたことがないです」と笑う素顔は、グラウンドで一変する。得意のミドルシュートを打ち込み、150センチの身長を補う素早い読みでピンチの芽をつむ。16年のリーグ戦出場は5試合にとどまったが、まだ21歳の有望株は「今年は『耐える年』。みんなの試合を上から見て、たくさん学んだ。ケガも『無駄』では無かったと思います」と前を向いた。

 プロ4年目を迎える17年。掲げるのは「全ての経験を生かす年」だ。「リーグ優勝できていないので、勝つことにこだわってチームの中心でやりたいです」。4年ぶりのV奪還こそが、澤さんが喜ぶ最高の恩返しのはずだ。【松本航】

 ◆伊藤美紀(いとう・みき)1995年(平7)9月10日、青森・おいらせ町生まれ。小学1年でサッカーを始め、宮城・常盤木学園高1年時にU-16日本代表初選出。14年にINAC神戸入りし、15年はリーグ戦16試合2得点と主力に定着。愛称は「いときん」。名前を略した「いとみき」が変化し、高校時代から定着。150センチ、44キロ。