東日本大震災で被災した仙台市出身でフィギュアスケート10年世界ジュニア王者の羽生結弦(ゆづる、16=東北高)が、「最後まで…」をテーマに滑り抜く。2日、都内でグランプリ(GP)シリーズの会見が行われた。震災で仙台市の練習拠点を失った羽生は、今夏だけでアイスショーに計60回も出演。ショーの演技を練習代わりにしてきた。シニア2年目の14年ソチ五輪期待の星は周囲の支援や声援を力に、GPファイナル(12月8日開幕

 カナダ)初進出へ突き進む。

 今季のテーマを、羽生は「最後まで…」と答えた。震災で環境が整わず、練習時間も少ない。不安はあるが、言い訳にするつもりはない。「練習をやり切る」「最後まで演じきる」「最後のファイナルに行く」。この3つに思いを掛けた。

 3月11日の練習中だった。氷が波打ち、上から物が降ってきた。スケート靴を脱ぐ暇はなく、だが刃があるためにひざで移動した。4日間は避難所生活。リンクは復旧のめどが立たず、青森・八戸や横浜を拠点に「数え切れないほど」のホテル暮らしを送った。ほとんど仙台には戻れず、練習時間も満足に取れない。そんな逆境を逆手に取ったのが、ショーの活用だった。

 この夏、60回もショーに出演した。トリノ五輪金メダルの荒川静香さんが「私も五輪後にたくさん出たが、60回はかなり大変。それも夏だけで…」と絶句するほどの数。その中で、ショートプログラムやフリーを全力でこなした。早めに会場に入り、関係者に頼んで一足早く練習させてもらったこともあった。「試合と同じ感覚で臨み、いい滑り込みになりました」。

 60回もこなす中で、数多くの声援が力になった。昨季のGPシリーズは4位と7位。「みんなの期待に応えたいと思った。今季はいろんな大会に出たい。最後のファイナルまで…」。14年ソチ五輪期待の星は被災者の1人として、今季を最後まで、全力で滑り抜く。【今村健人】