高砂親方(52=元大関朝潮)が、弟子の横綱朝青龍(28=高砂)の復活に向け「ギャンブル」に出た。5日、福岡市内の部屋で、モンゴルでの左ひじ治療を終えて来日した朝青龍から経過報告を受けた。会談後には九州場所(9日初日、福岡国際センター)休場を示唆。場所中は「治療のため」という条件付きで部屋を離れることも認めた。ケガの完治を考えてのことだが、師匠の目を離れることで朝青龍が「野放し状態」になる危険性も出てきた。

 高砂親方が朝青龍に「特権」を与えた。言葉を濁しながらも「今日帰ってきて場所に出るというのは…。みなさんお分かりでしょう」と九州場所の休場を示唆。場所前は部屋の朝げいこに顔を出すよう通達したが、場所中の調整は「ひじは完治とは言えない。いいところがあれば治療に行くかもしれない」と、「治療のため」という条件付きで、部屋を離れることを許可した。7月名古屋場所休場の際も泊まりで温泉治療したが、同様の措置になる。

 朝青龍の復活へ、他の親方からの批判も覚悟で、モンゴル滞在期間の延長を3度も許可した。過去の横綱は休場が確実な状況でも番付発表は部屋で迎え、けいこと並行して治療した。前例を破る「特権」は、次に出る場所に進退をかける弟子に、いい環境を与えようという親心にも映る。関係者によると、この日の会談でも朝青龍から「初場所に進退をかけます」という言葉が出たという。

 一方で、弟子への思いやりが、わがままを助長することになりかねない。まじめに治療に専念すればいいが、朝青龍が「治療」を免罪符と勘違いして問題行動を起こせば、師匠として責任を追及される。師弟にとって「賭け」でもある。

 1カ月ぶりに来日した朝青龍の行動からは、不安がにじんだ。反省の言葉はなし。治療中に迷惑をかけた師匠や関係者、ファンへの謝罪も一切ない。ファンへのメッセージも「帰ってきましたので、よろしくお願いします」というありきたりな言葉だけだった。

 高砂親方は朝青龍の治療の延長希望を認め、武蔵川理事長も前例を覆す来日延期を認めざるを得なかった。秋巡業全休で担当の親方たちは勧進元の苦情対応に奔走した。九州のファンには2年連続で相撲を見せることができない。「多くの犠牲の上に治療ができた」という感謝の気持ちは、この日の朝青龍からはうかがえなかった。取材に薄ら笑いを浮かべながら応対した横綱が、周囲の苦労に報いることができるのか、不安は大きい。