あの登場曲が、横浜スタジアムで聞けなくなる。DeNAの「ゴメス」ことG後藤武敏内野手(38)が、現役引退を決断した。

近年は、右の代打としてベンチに控えていた。チャンスで出番がくると、アントニオ猪木の代名詞「炎のファイター」が流れる。「ゴメス・ボンバイエ」のかけ声とともに打席に入ったときには、球場の空気は変わっていた。

もともとは、西武時代に対戦相手の選手が登場曲に使っていたことで「球場の一体感がすごい」と、自身も取り入れた。DeNAにトレード移籍した直後、時間に遅れて謝る後輩から「ごめーんす」と言われたことがきっかけで、愛称が「ゴメス」になったという。明るく、温和で、気さく。でも、ここぞの場面で勝負師の顔を見せる。代打本塁打11本は、その証しでもある。だから、ファンにも選手にも、みんなから愛された。

今季開幕前の1月。自主トレで2軍練習施設に“新兵器”を携え、シーズンに向けて特訓する姿があった。3センチほどのスポンジボールと、同じ直径の鉄バットで、ティー打撃を繰り返していた。「重心の移動をしっかりするため。正しく振れないと当たらない」と新しいことにも果敢に挑戦。チーム最年長になっても、変化を恐れることがない。その姿勢はまさにファイターだった。

今季はまだ1軍での出場がない。当然、まだあの登場曲は流れていない。「代打で出場した時、横浜スタジアムに響く鳥肌が立つような大歓声は、今も心に残っています」。惜しまれながらユニホームを脱ぐ前に、もう1度、炎のファイター・ゴメスの勇姿をみんなが待っている。【DeNA担当 栗田成芳】