“なぜ、ロッテファンになったのですか-?”

偶然だった。23年前、少年は足の病気で埼玉・越谷の病院にいた。退屈な入院生活。テレビに見知らぬチャンネルが映った。

「たまたま電波が紛れ込んでいたんです」

千葉テレビでロッテの試合が放送されていた。「弱いなぁ」。でも、気になった。退院祝いはマリンスタジアム。かつての東京スタジアムの近くで育った父も、前身の大毎オリオンズが身近にあった。「血を引いているんでしょうね」。

中学時代、週末には都内から1人で、ライトスタンドへ通い詰めた。「大きくなったら、このあたりに住んで、シーズンシートを買いたい」。夢は膨らんだ。

    ◇  ◇

大学進学で、彼女は故郷の山梨から千葉へやって来た。引っ越しを終え、いきなりホームシックに襲われた。予定のない翌日。目的もなく電車に乗った。ディズニーランドも考えつつ「あっ、マリンスタジアム行こう」と思い立った。かつて野球少女だった。

海浜幕張駅で降り、球場を1周して、何もせずに帰った。いつの間にか、心細さが消えていた。

大沢弘幸さんと、佐野愛実さん。特別支援学校で教職に就く2人は、出会ってほどなく交際を始めた。弘幸さんは初デートで「マリンに行こう」と誘うと「イヤだ」と断られた。「2人で行くなら、野球じゃなくても」と思いつつ、愛実さんは1カ月後、1人でマリンスタジアムで観戦するほどロッテにはまっていく。

ある日、愛実さんがファウルボールをキャッチし、テレビ中継に映された。慌てたのが、山梨でテレビ観戦中の愛実さんの父。「うちの娘が男といる!」。試合後、すぐに母から電話がかかってきた。

ロッテファンの大沢弘幸さん、愛実さん夫妻(撮影・金子真仁)
ロッテファンの大沢弘幸さん、愛実さん夫妻(撮影・金子真仁)

海浜幕張に居を構え、結婚し6年になる。コロナ禍で勤務先の学校もしばらく休校が続いていた。ようやく通常登校が再開されたばかり。「未来がある仕事。子どもたちが成長していく姿がうれしくて」と、再会を心待ちにしていた。

プロ野球も再開した。今季は、慣れ親しんだシーズンシートには座れない。「行ける試合には行きたいですね」と弘幸さん。仕事帰り、ほぼ全試合に駆けつけ、試合を振り返りながら自転車で家路につく…来年は2人らしい日常が戻ることを願っている。

ロッテとマリンスタジアムに導かれた2人の歩み。これからも愛するチームがそばにある。「かっこよく言っちゃうと、運命だなと思います。いろいろあったけれど、今は全て正しかったのかなって」。13日は愛実さんの誕生日。今年は球場ではなく、自宅で祝った。【金子真仁】