放浪の俳人、種田山頭火の傍らにはいつもお酒があった。のどと心を潤しながら、自由に言葉を並べた。

半世紀近くプロ野球の世界でお世話になり、全国を回った。若い頃はお酒もそこそこ飲んだが、現役を退いたあたりから食に興味を持つようになった。

単純に言って1年のうち半年間、家を空けて勝負を繰り返す。遠征で探し出す珍しい美味が、無意識のうちによりどころとなっていたのだと思う。今回は野球とは少し離れるが、感動を受けた食を南から挙げていく。

◆沖縄・石垣島のオオタニワタリの天ぷら 日本南部に着生するシダ植物で、ワラビやゼンマイの仲間に入る。山菜ではコゴミが好きだが、さっぱりしていてまたひと味違う。「ひと味」といえば、豆腐ようも滋味があり好きだ。

◆鹿児島の首折れサバ ロッテ時代の秋季キャンプで食べた。屋久島で取れるゴマサバで、鮮度を保つためにすぐに首を折って血を抜いてある。身が締まって別格の味。

◆熊本の馬刺し 赤身はよくあるが、上品なサシが入っている。

◆長崎のアジのたたき つけだれとして、普通はしょうゆにわさびやショウガを入れるが、当地ではしょうゆに辛い青唐辛子を刻み、漬けて食べていた。これは今でも時々作っている。大分の関サバにカボスを添えたり、イシダイの皮をポン酢で食べたり…九州は素材の引き立てに工夫を凝らしている。

福岡のハタ。下関の鯨の尾の身を、ショウガしょうゆで。広島の虎魚(オコゼ)の刺し身と唐揚げ、小魚の南蛮漬け…関東ではあまり食さない魚たちが、それぞれの地域では日常の中にある。

◆高知のイワシ丸干し 素朴さと美味の差に感銘を受けた。聞くと天日干しとのこと。機械干しとこれほど味が違うのかと驚いた。

兵庫・明石のイイダコ、穴子の白焼き。梅肉につけて食べるハモ。滋賀の鮒すしは、発酵したにおいがクセになる。和歌山のサンマの丸干し、福井の小ダイのササ漬け。

◆石川のフグの卵巣 塩で漬け、その後でぬか漬けして猛毒を抜くそう。手間に応じた美味。

◆富山・イカの塩辛 絶品、かつ珍味。今でも一番に推薦できる、塩辛の味は、ぬか漬けで言うと浅漬けと表現した方がいい。塩辛の上に大葉とショウガを刻み、うずらの卵の黄身であえる。

こうして挙げてみると圧倒的に魚類が多く、しかもお酒のつまみと思えるモノばかりである。舌を通して安らぎを求める…お酒とつまみには親和性があり、切り離せないのだろう。(つづく)

小谷正勝氏(19年1月撮影)
小谷正勝氏(19年1月撮影)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算24勝27敗6セーブ、防御率3・07。79年から投手コーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団でコーチ、13年からロッテ。17年から昨季まで、再び巨人でコーチ。