東京オリンピック(五輪)で金メダルを獲得した日本代表のクローザーを務めた広島栗林良吏投手の活躍を見て、選手の適材適所をいかに見つけられるかは、指導者にとって、非常に大事だなと再認識した。ルーキーでありながら、カープ、日本代表で抑えとして、大仕事をこなすのだから、とてつもないことだ。

8月7日、東京五輪決勝の米国戦で力投する栗林
8月7日、東京五輪決勝の米国戦で力投する栗林

投球を見て、第一に感じたのはメンタルの強さだった。プロ野球で投手コーチを務めた立場から言えば、抑えはたった1球で勝敗が決まるポジションで、重圧が大きく、新人に任せるのは非常に勇気がいる。五輪でも発揮した精神面の強さが抜てきの理由の1つなのだろう。期待に応えた栗林はもちろん、広島の監督、コーチに敬意を表する。

ピッチングは、相手打者が嫌がる高低の攻めを軸とする。強い真っすぐと縦のカーブを駆使し、勝負球にはキレのいいフォークがある。打者に聞くと、横の変化よりも縦の変化の方が対応が難しいと言われる。早めに追い込み、縦の変化で勝負する自分の投球スタイルが確立されている点も、特筆すべきだろう。

私が携わった中で、佐々木主浩はフォークの達人だった。大魔神と呼ばれ、ストライクからストライクのフォークで打ち取ることもあれば、ここぞの勝負どころではストライクからボールになる球を投げた。真っすぐのコントロールも良く、投球に不安を感じさせることはなかった。

現在、ヤクルトの監督を務める高津臣吾は、サイドスローから抜群のコントロールと抜き球でセーブを重ねた。一般的には、横手投げは左打者との対戦は分が悪いと言われるが、高津は真っすぐのコントロールとシンカーを武器に、むしろ左打者封じの名人で知られた。

抑えの条件の1つとして、マイナス思考は禁物である。自分の自信のあるボール、信念を持った上で「攻めて、攻めての、攻めダルマ」でいい。今後、たくさんの壁にぶち当たることもあるだろうが、彼のメンタルの強さから見れば、あらゆる難題にも打ち勝っていくだろう。

8月7日、東京五輪決勝の米国戦で力投する伊藤
8月7日、東京五輪決勝の米国戦で力投する伊藤

メンタルの強さで言えば、東京五輪ではリリーフで活躍した日本ハムの伊藤大海投手にも驚かされた。あのマウンドでのふてぶてしさは何だろうか。ピッチングでは、1球1球意思のあるボールを投げ、スピンの利いた球と絶妙のコントロールで思い切りのいい投球をしていた。故障さえ防げば、恐ろしいくらいの投手になるだろう。(次回は9月下旬掲載予定)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算10年で24勝27敗。79年からコーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団で投手コーチを務め、13年からロッテで指導。17年から19年まで再び巨人でコーチを務めた。