高校野球の地方大会が7月末で終わった。日刊スポーツの新人記者が「1年目の夏」を体感。取材に汗を流した、それぞれの夏を振り返る。

   ◇   ◇   ◇   

★もっと成長していつかまた彼を

6月中旬、「キン肉マン」こと中村アラシュ外野手(3年)に取材するため、埼玉の聖望学園を訪れた。SNSや他校で耳にしたうわさを頼りに取材に行ったのだが、彼との出会いは私にとって大きなものになった。

対面した瞬間、その迫力に後ずさりした。丸太のような上腕にメロンのような胸筋。話を聞くと「冬で体重が20キロ増えた」や「ベンチプレスは125キロです」など強烈な回答ばかり。圧倒されっぱなしだったが、口調は柔らかく目は優しい。私と地元が一緒と分かると「マジっすか!」とうれしそうに話をしてくれた。

チームの取り組みを知るため、選手たちが帰るまで練習を見ていた。全体練習は午後6時過ぎに終わったが、多くの選手が「もうちょっと」と同8時ごろまでバットを振った。「自分たちは不祥事で野球ができない時期があって…。野球ができることは当たり前じゃないし、監督が満足するまでやらせてくれるので、思う存分、振らせてもらっています」。不祥事や3度の監督交代など、グラウンド外の出来事に翻弄(ほんろう)された2年半。野球ができることを純粋に喜びながら振り込む中村に、どんどん引き込まれた。

迎えた夏初戦。初回無死満塁で中村に打席が回った。ファインダー越しに見ていると、初球から気持ちよく振り抜いた。打球の行方を確認できていない。それでも打球の角度、ゆっくりとなった中村の走り、一瞬の沈黙の後に湧き上がったどよめきで、何が起きたか分かった。これまで味わった悔しさやもどかしさを振り払うような、漫画のように爽快な1発だった。

7月15日、浦和西戦で満塁本塁打を放つ聖望学園・中村
7月15日、浦和西戦で満塁本塁打を放つ聖望学園・中村

聖望学園はその後5回戦で山村学園に敗れた。中村は埼玉大会屈指の好左腕・西川歩投手(3年)に抑え込まれ「甲子園しか目指していなかったし、もっと野球がやりたかった」と泣きながらうずくまった。記者に話をしたくない気分だったかもしれない。それでも私の質問に丁寧に答え「野見山さんにもっと取材してもらいたかったです」と言ってくれた。記者になって初めて言われた言葉で、うれしかった。

中村は大学に進学し、プロを目指す。私ももっと成長して、いつかまた彼を取材したい。目標ができた夏になった。【野見山拓樹】