プロ野球ドラフト会議が24日に迫る。華やかさも厳しさもある世界を志す若者たちは、人生の分岐点を前に今、何を思うか。第1回は今春の甲子園で全国制覇した健大高崎(群馬)の熱きキャプテン、高校NO・1捕手と呼ばれる箱山遥人捕手(3年)のもとへ。
12球団目の面談を終えたばかりの箱山が、雨の中を駆けてきた。「お待たせしました」に続いて「あ、何かお飲みになりますか?」と部屋の片隅にある冷蔵庫へ手を伸ばす。
「ブラックコーヒーとか微糖のコーヒーも。お茶、スポーツドリンク、水も。缶のもありますよ」
それではブラックを。高校生はコーヒーが苦手な印象がある。箱山は「コーヒー牛乳ならいけるんですけど」と、お茶を取った。
自己PRに「捕手としての観察力」を挙げる箱山は、気が利く。記者に飲み物を勧める高校生に初めて会った。「今は監督さんたちも別の部屋ですし、お客さんが来たら飲み物は必要かなと思って」。なかなかできることではない。
「いただきます」とプルタブの開封音が続いた。プロを志し、12球団全てから興味を持たれた。「すごくうれしいことです。勝つためにプレーしていた姿を評価していただけて。スカウトの皆さんに何かを感じていただけて光栄です」。リード面の評価は特にうれしかったという。
夏の群馬大会決勝。後にトミー・ジョン手術を決断した佐藤龍月投手(2年)のリードが真骨頂だった。1点リードの7回から登板した左腕の肘の痛みは、それなりに察していた。
「左打者の内角ってそれなりに神経使わなきゃいけないので。そこで抜けて死球で崩れるのが一番怖かったです。外だけで勝負するしかなくて。相手のミスショットを狙うしかないような状況でした」
肘を考えれば直球は控えさせたい。「カット、スライダー、カーブの球速差で何とかかわして。いざという時のためにツーシームを取っておいて、それでホームゲッツーでピンチをしのげたのが良かったです」。極限の重圧の中で、甲子園出場に導いた。
“人生2周目”かと思うほど、落ち着きぶりは高校生ばなれしている。
「自分、年上の人と話すのが好きなんですよ。小学校の時から。友達ともそうですけど、友達のお父さんと話すのも好きで。だから話しかけるし、話しかけられることも多くて」
指導陣に涙の直談判をしたこともある。高校3年生として圧倒的なリーダーシップを示した箱山は、ドラフト会議を経て再び“1年生”に戻る。何より大事な先輩投手とのコミュニケーション。新天地で成功する姿も想像しやすい。
夏から2カ月。聞きたいことがあった。箱山は甲子園で敗れ、お立ち台で「もう2度と高校野球ができない…。すごい、悲しいです」と叫ぶように号泣した。しかしテレビ撮影が終わり記者に囲まれると、別人のように冷静だった。
「あれはなんか、お立ち台で話している間に落ち着きました。野球やってる時って我慢せず、全てをさらけ出したいんです。それでカメラの前で自然と泣いて話していたら、なんか自分は幸せものだなって感謝の方が強くなって」
そんな18歳。気配りができて、いつでも自分の言葉で話せて。箱山遥人は、本当はどんな人なんだろう。
「明るい…明るくはないか。野球では自分を殺す時もあります。でも根は普通です。いじるのもいじられるのもあります」
いろいろあるから深みが出る。「今朝丸(報徳学園)とか、評価どんな感じですか?」と興味津々で聞いてくる。「ドラフト、楽しみです」と、ほぼ同じタイミングで1缶を飲み干した。「この後も取材、ありますよね。缶はここに入れておいていただければ」。雨が強まった。傘で送ろうとしたら「大丈夫です、走ります。まじダッシュします」。均整の取れた後ろ姿に、未来のスターを感じた。【金子真仁】
◆箱山遥人(はこやま・はると)2006年(平18)4月26日生まれ、東京都足立区出身。中学時代は江戸川中央シニアで全国大会3位を成し遂げ、健大高崎へ入学。甲子園には3度出場し、3年春に優勝。高校通算35本塁打。176センチ、85キロ。右投げ右打ち。





