一連の球界再編問題を振り返る上で、堀江貴文氏(46)は絶対に外せない人物だ。近鉄とオリックスの合併に待ったをかけ、近鉄の買収に名乗りを上げた。「ライブドア」は参入を果たせなかったが、閉塞(へいそく)感が充満していた当時の球界に風穴をあけた。

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2004年(平16)6月30日に、東京証券取引所で近鉄買収の意向を表明した堀江。4日後、バファローズの赤いハッピをまとい、大阪ドームの右翼スタンドに乗り込んだ。

ファンと一緒に声をからし、近鉄がオリックスに逆転勝ちした試合後、ハンドマイクを手にした。「ホリエ! ホリエ!」の大歓声の中、もみくちゃにされて訴えた。「すごい感動しました! ナベツネさんも宮内さんも、1回ここに来て応援すれば、合併なんて気持ちにならない。僕にできることがあったら、できるだけ頑張ります」。球場で民間人のコールが起こったのは、後にも先にも1回だけだ。

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ファンとかファンでないとか、関係ないんですよ。そういう理由は、どうでもいい。プロ野球のビジネスが変わっていることに「これは面白い」って。だから、ひいきのチームとかは特になくて、どっちかというとライトな。ただ、今でこそ分かるんだけど、スタジアムに行くのが好きだった。

僕は純粋に、ベースボールを真剣に見るんじゃなくて。「ホームラン、すごいな」「ビシッと三振、すごいな」「ここで勝ったらクライマックスシリーズに行ける」…そういうモノを見たい人で、毎日のように見に行くという人ではないんですよ。マジョリティー(多数派)と思うんですけど、そういう普通が、大事な時代に入ってきたなぁと感じたんです。

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堀江は新たなビジネスモデルとして球団経営に興味を持ち、確証に近い勝算を持ち、買収に名乗りを上げた。混乱の中でも第一義はぶれなかった。

近鉄についてのリサーチを重ね、接触を試みたが先方からの連絡はなく、合併報道が出た。膠着(こうちゃく)状態だったある日の朝、1本の電話で動くと決めた。

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当時楽天にいて、今はヤフーにいる小沢君(隆生=現ヤフー執行役員)から起き抜けに電話があって。

堀江 どうしたの?

小沢 近鉄、買えるかもしれないよ。

堀江 なんで? オリックスと合併するんじゃないの?

小沢 (選手会側は)12球団で残したいみたいなんだよ。だから目はある。

堀江 おたくのボスはどうなの?

小沢 ウチのボス(三木谷浩史氏)は、全然やる気はないよ。

だったらやる、と乗って。その後は、皆さんご存じの通りになった。

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9月に入り、楽天が新規参入に手を挙げた。2度の公開ヒアリングを経て、ライブドアは敗れた。仙台を本拠地とする「仙台ライブドアフェニックス」。監督はトーマス・オマリー。堂々と質問に答え、勝負した。「どう思った? そんな質問は、どうでもいいでしょ。楽天とは何の遺恨もない。仙台に球団ができて、良かったねというだけです。感情論の話をしたって、しょうがないじゃないですか」。

昨日の敵が今日の友となりうるIT業界。土俵での勝負に徹し、禍根を残さなかった。(敬称略=つづく)【球界再編問題取材班】

04年10月、堀江社長とガッツポーズをするオマリー・フィールドマネジャー
04年10月、堀江社長とガッツポーズをするオマリー・フィールドマネジャー