雪国のハンディなどまるで感じさせなかった。日本航空石川が、土の感触を楽しむように動き回った。9回、1死満塁のピンチも、一→捕→一とわたる併殺で切り抜け、逆転サヨナラ勝利に導いた。一塁手の小板慎之助(3年)が「土の感覚には慣れていたんで、自分のプレーができました」といって胸を張った。

 同校ナインは今月10日、雪の残る輪島市を出発し、徳島・阿南市に向かった。「アグリあなんスタジアム」を会場に、5日間の合宿を組んだ。両翼100メートル、中堅122メートル。外野は天然芝で、内野は黒土。甲子園がイメージできた。「学校では室内練習で、人工芝なんです。土とは打球の跳ね方、速さが違う。土で練習できて良かった」。鳴門相手など7試合の練習試合も消化した。

 阿南市は元巨人の水野雄仁、條辺剛らを輩出した野球どころ。草野球チームも多いが、どの地方にも見られる高齢化、人口減等の問題を抱える。そこで市は野球を「売り」に活性化に乗り出した。07年に「野球のまち阿南」推進協議会を設立、市役所には「野球のまち推進課」がある。

 推進課の田上重之(65)が説明した。「早起き野球や少年の全国大会はもちろん、プロや独立リーグも。高校や大学の合宿も誘致しています」。欽ちゃん球団(ゴールデンゴールズ)を招いたことがある。東京6大学のオールスターを開催したのは3年前だ。「60歳以上の女性」が採用条件のチアリーダーも人気だ。つけた名前が「ABO60」で「阿南・ベースボール・おばさん」の略だという。

 甲子園まで車で2時間半というのも出場校にはありがたい。直前合宿は、11年の佐渡(新潟)から。以来毎年のように、北信越勢が訪れる。「地域のおじいさん、おばあさんが手伝いにきてくれ、みそ汁やお茶を出してくれました。ありがたかったです」。女子マネジャー境悠希(3年)がつい半月前を思い出した。

 「3年前のセンバツで敦賀気比が優勝してから、ウチで合宿すると勝つんですよ。去年は大阪市立大(近畿大学野球)が優勝しました。縁起もいいんです」。田上がアピールした。

 四国はかつてプロ野球キャンプの中心だった。80年代、日本ハムの鳴門など5球団が顔をそろえたこともある。今、雪国の野球部がセンバツに備える場になっている。

 「合宿に行って良かったですよ」。コーチの上田耕平(33)も喜んだ。四国合宿を経て甲子園に乗り込んだ日本航空石川が、四国の明徳義塾を撃破してベスト8を決めた。(敬称略)【米谷輝昭】