課題の収集を目当てに鳴尾浜球場へ。練習を見て選手の動きをチェックする。試合に集中してファンの関心が高い出来事に注目する。ウエスタン・リーグ、開幕して2カ月が経過した。記録に目を通してみる。変動があった。なんと阪神が8連勝してレースのトップに立っている。この日の相手は2ゲーム差で追いかけているソフトバンク。いわゆる首位攻防戦である。「ファームに勝ち負けは関係ない」とはいえ、勝利は精神面で選手を育てるための副産物。課題のひとつと言えるが…。

 ところがである。3連戦の初戦、阪神の先発マウンドにあがったのは藤浪ではないか。ファーム落ちして2試合目の登板。良くも、悪くも私個人として気になるのはやはり、藤浪晋太郎である。ファンも気になるところだろう。

 チェックする点はいろいろある。球速は…。球質は…。変化球は…。投げ方は…。引っかけ球は…。制球力は…。右打者への意識は…。イップス、精神面からくる投球の乱れとあって簡単には治らない。技術的な面で調子を落とすことはよくあることで、ある意味修正はしやすいが、藤浪の不振が長引いているのは、心の病だからだ。いま大変な修正課題を背負って奮闘中である。私、自分で体験したことはないが、この病を抱えながら活躍していた選手を見てきた。皆さんごぞんじでしょう。あの江川問題で巨人から移籍してきた故・小林繁氏である。厄介なものに取り付かれていたものの、現実に頑張っていた投手もいたわけで、自信さえ戻れば完全復活の可能性は十分ある。

 マックスの153キロはやや遅め。球は生きていたし、力もあった。変化球は普段より多め。修正課題の中のひとつで、試しに投げていた部分もある。抜け球、以前のように打者の頭上をかすめるような、とんでもない球はない。右バッターの外角への引っかけ球はほとんどなかった。

 藤浪は「自分はコントロールのいいピッチャーではない。ある程度の四球は仕方ないですけど、もう少し減らせると思います」と語った。意識過剰から抜け出した感はある。被安打4。与四球4。奪三振9。失点、自責点1。数字で見る内容は及第点だが、問題があるとしたら…。

 6回、122球。投球数を見ると普通なら完投したピッチャーの球数である。制球に難があるのは本人も認めているが、逆にその荒れ球が取りえの投手。投球数が少々多いのはあたり前だが、この日のピッチングを振り返ってみると、カウントがスリーボールになるケースが多々あった。疑問が頭に浮かんできた。1軍と2軍。バッティング面での力の差はかなりある。今回といい、前回のオリックス戦といい、ファームだから打ち損じてくれた。力負けすることなく抑えられたところはあるはずだ。果たして、これだけカウントを悪くして1軍の打線と対等に勝負できるだろうか。苦し紛れに投げる球は怖い。甘い球は見逃してくれない。力のない球は打ち損じてくれない。暗中模索。復活の見通しは立てにくい。

 指導にもかなりの気遣いが必要になる。本人に意識させない指導法。矢野監督の「マウンドで、自分と闘っている感じはなかった」は相手と勝負できるようになった証し。やっと1歩前進といったところ。「いい部分、反省すべき部分も出ましたが、自分の感触としては悪くなかった。落ち着いて投げることができました」(藤浪)。

 いま、最も必要とする自信とは体験からしか得られないもの。自分でつかみ取るしかないのだ。

 話題の藤浪。今回はなんとか結論を出そうと思って執筆してみたが、結論に達するところまでいかなかった。これが藤浪の現状である。ちなみに、もうひとつの話題、ウエスタン・リーグの首位攻防戦は、ソフトバンクに2勝1敗で詰め寄られた。