やっとのことで逃げ切った。広島の粘りに苦しんだが、最後、岩崎が3人で片づけた。8月25日。ここで負ければ6ゲーム差…。絶望的な状況になるところで、阪神は踏ん張った。
試合後の三塁側ベンチの様子がテレビに流れていた。その中で2人、ベンチに腰を落とし、しばしの休息を取っていた。大山と中野。ベンチの壁に2人とも、顔を寄せていた。ここには通風孔があり、隙間から冷気が流れ込む。これを気持ちよさそうに受けていた。精根尽きた。そんな風情が見て取れた。
そのあとだった。立ち上がった大山は荷物を持って歩き出した時、目の前に石井が立っていた。7回、リリーフに出て、本来のピッチングができなかった。うなだれていた石井に、大山は背中をポンとたたき、ねぎらいと励ましの動きを見せていた。
ゲーム後によくあおる光景ではあるが、この期に及んでの投打の枠を超えた姿は実に爽快に映った。そういえば7回、大山はエラーを犯していた。石井を苦しめるキッカケをつくった責任があった。それも大山の行動にあった。
ここまでくれば内容より結果。その結果を出すためにチームがひとつにならなければ。ここからは総力戦。投も打も結果を出すためにひとつになる。その先頭に立つのがやはり大山…。それを象徴する一連の動きがテレビ画面に映し出されていた。
4番から5番に打順が落ちた。それでも心は4番のまま。黙って勝負。この日、タイムリーを2本、3打点。寡黙な男はバットで勝負する。特に7回の打席だった。1死満塁で4番佐藤輝はボール球を振り、まったく状況を考えないスイングを繰り返し三振…。ベンチに下がる姿をテレビは追っていた。ベンチに腰を落とし、フッと息を吐いていた。自分本位の打撃に何を思うのか。
そんな佐藤輝を救ったのが大山だった。レフトへの2点タイムリーで佐藤輝を救った。佐藤輝はどう感じたのか。それが気になって仕方なかった。
監督の岡田彰布は、大山についてこう語っていた。「アイツの周りには人が集まる。慕われているんやろな。信頼されて、みんなが認めている。そんな選手よな」と。
ゲームセットの瞬間、マウンドに集まる選手の輪の中、大山のもとに外野手が近づく。近本が笑いながら寄ってきて、森下もそばに来る。木浪、中野の内野陣も大山を中心に笑いを爆発させる。岡田が言った「人が集まる」力が大山にはあった。
こういう力を佐藤輝にも備えて欲しいとは思うが、いまはそれどころではない。残り26試合。まずは眼下の敵、DeNAを蹴散らし、そのあとの巨人戦だ。連覇への生き残りをかけた戦いに挑む。もう間もなく岡田から総力戦の号令が響く。自打球を右頬に当てながら、黙々とプレーする大山が、その先頭に立て! 可能性がある限り、あきらめることはない。【内匠宏幸】(敬称略)(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)






