7日開幕の栃木大会を皮切りに、今週末から関東でも夏の甲子園に向けた地方大会が開幕する。現在、プロで活躍する一流選手も通った道。この高校野球の3年間で自身の野球観や取り組みが変わった選手は数多く存在する。チーム屈指の「練習の虫」で有名な巨人内海哲也投手(35)にとっての高校野球もまた、野球への意識が大きく変わった原点だった。

 内海が、敦賀気比高(福井)に入学して間もない頃だった。日々のハードな練習に疲れ、練習後は自室で体を休めることが多かったという。ある日、喉を潤すために自販機に向かうと、ウエート練習場から器具の音が聞こえた。「こんな時間に誰やろ?」。わずかに空いた隙間から、室内をのぞいた。音の主はライバル投手だった。

 京都田辺ボーイズに所属した中学時代、内海は3番手投手だった。当然、将来のエース候補と期待されたのは、鳴り物入りで入部したライバル投手の方だった。にもかかわらず、エース候補だったライバルは陰で汗を流し、内海との差を広げる努力を重ねていた。

 内海 普段の練習がめちゃくちゃきつくて、自分は頑張ってるって勘違いしてたんです。でも、それは与えられた練習。自分よりもすごいやつが、見えないところで努力してた。自分も変わらなきゃいけないなと思った。

 内海自身、夢の甲子園出場はかなわなかった。3年夏は福井県大会決勝で延長10回の末に、元西武の山岸穣、広島天谷宗一郎を擁した福井商に敗れた。左肩痛に襲われながら、前日の準決勝(対若狭)では延長13回178球の熱投。決勝戦当日もブルペン捕手と正捕手以外には左肩痛の事実を隠し、腕を振り続けた。

 内海は14年から年に1回、当時のチームメートと草野球を実施する。対戦相手は、巨人亀井を擁する上宮太子の同い年メンバー。「世代最強チームを決める試合」と30歳を超えた大人たちが、高校当時にタイムスリップしたかのように真剣勝負で白球を追いかける。夏の地方予選は、高校3年生にとっては集大成の大会。今年もまた、それぞれの思いが詰まった夏が訪れる。【久保賢吾】

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)