プロだけでなく、大学野球も全国各地でキャンプを行っている。関甲新リーグ最多、7季連続優勝中の上武大も沖縄や鹿児島・徳之島でキャンプを張っているが、今年はなんと新1年生1人を含む部員159人が遠征した。通常は選抜されたメンバーのみが参加するケースが多い。スケジュールが異なるとはいえ、150人を超える部員が九州や沖縄まで遠征するのは非常に珍しい。この「全員キャンプ」を可能にさせたのが、王者・上武大の強さだ。

 遠征費は両親に頼らず、自費でまかなっている。約15万円の貯蓄をメドに、部員自らアルバイトをして資金を調達する。11月の終わりから「アルバイト月間」がスタート。授業のない土日を中心に、それぞれが野球部指定のアルバイト先へ出向いた。貴重な1日練習の日をつぶしてアルバイトをさせる意義を、谷口英規監督(48)はこう語る。「働くことで、お金のありがたみを感じるきっかけになるし、社会勉強にもなる。例年アルバイトはしていますが、今年は全員分まかなえるだけのアルバイト先が見つかったので全員でキャンプへ行く計画を立てられた」と話す。

 学生コーチの松本一志さん(3年=筑陽学園)は毎週金曜~日曜の3日間、千葉・市川市にある工場で梱包(こんぽう)や棚だしのアルバイトを行った。勤務時間は午前9時から午後6時。群馬・伊勢崎市の寮からバスで片道約3時間をかけて通った。「朝5時半に起きて、歩きっぱなし立ちっぱなし。練習よりきつかったです(笑い)。1万円を稼ぐのがこんなに大変なのかと思い知らされました」と振り返る。松本コーチが沖縄キャンプに来たのは今回が初。「一生懸命働いて、暖かい場所で野球をできる喜びを感じました」。時に雪の舞う群馬から気温20度の沖縄のグラウンドに立ち、汗をかきながらうれしそうに話した。

 そして、このキャンプを実現させたことが「全員野球」を体現している。上級生と違って、下級生はコマ数が多く土曜日も授業に出なければならないことが多い。頑張って働いても、15万円の貯蓄に満たない選手も出てくる。松本コーチは「15万円以上貯蓄できている4年生が少しずつ出し合って、足りない分を補填(ほてん)しました。ほんの少しですが、みんな気持ち良く出すことができた」と話した。上級生が下級生の分を快く補い「全員キャンプ」を可能にした。「全員野球は野球をすることだけを意味するのではないと思います。監督さんがよく言っていますが『大人数はデメリットにもなるが、まとまればそれ以上の力を発揮する』と。本当にそう思います」。

 資金はもちろん、スケジュール調整や練習場所の確保など苦労は絶えない。大変な思いをしてたどり着いた地だからこそ、みんな必死に練習していた。力を集結させて実現した「全員キャンプ」で、上武大はきっとまた強くなった。【和田美保】