高校野球U18ワールドカップ(W杯)に伴う2週間の韓国出張から10日、無事に帰国した。

日本での日常生活に戻って、あらためて「無事に生還できた」と強く感じる。不安定な日韓情勢のことではない。私が2週間で何よりも怖かったのは、韓国のタクシーだ。

うわさには聞いていた。とにかく運転が荒い、と。高校日本代表の選手たちは、観光バスでホテルと球場間の約20キロを行き来した。日韓情勢の関係でパトカーが先導する、この上ない安全性。警察がマンマークしていて、スピードなんて出せるはずもない。

かたや、私たち報道陣。国鉄は1時間に1本で、球場の最寄り駅は日本語はおろか、英語表記さえない小さな町にある。20キロ走っても2500円ほどの安さは魅力で、移動手段はタクシー1択だった。スマホアプリもあり、タクシーが「見つからない」不便は全くなかったものの、どんな運転手に当たるかはギャンブルの領域だった。

2週間で30台近く、いろいろな運転手がいた。韓国語で一方的にまくしたてる人。行き先を伝えたらバットスイングのまねをして笑った人。領収書をお願いしたら、操作の前にコーヒーで一服した人。明らかに遠回りした人。秒針を刻むようにガムをクチャクチャ響かせ続けた人。降りるときに「サヨナラ」と日本語でほほ笑んでくれた人。

人柄は人それぞれ。共通していたのは、やはり豪快な運転である。スピード控えめの運転手は皆無で、基本的にやんちゃ。スピードだけならいいものの「そこに入るか!?」と驚くほどの横入りを高速運転中にこなす。どう見ても商業運転ではなく、ほぼカーチェイス。東京本社からの記事締め切り時間の圧も感じながら後部座席でパソコンをカタカタいじっていると、高確率で車酔いした。

衝撃的だったのは、確か9月2日の帰り道。高速道路上で数分間にわたり、最速160キロをマークした。いやいや、160キロを出してほしいのは別の人なんですよ。背番号11とか18とかの。韓国語を話せない私たち取材班は「おいおいおいおい…」と泣きそうな声を出すしかなかった。ちなみに100キロ規制の道路だ。

さらに翌日。昼からの雨にぬれ、カーブも多い夜の高速道路。スピード違反とか絶対ダメでしょ…という条件が出そろい、逆に嫌な予感がした。そして、あぁやっぱり。徐々にスピードを出し始め「やめろやめろ」と心の中でつぶやいたら、どんどん加速し最速150キロに到達した。一瞬、いろいろあきらめた。

しかし、韓国最大の思い出が野球ではなくタクシーというのも、いかがなものか。多感な高校生は何を見て、聞いて、感じていたのだろう。母校に戻ったサムライたちに会いに行こうと思う。【金子真仁】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

6日、力投する日本先発の佐々木(撮影・横山健太)
6日、力投する日本先発の佐々木(撮影・横山健太)