これは大きい。阪神から見て勝ちに等しい引き分けだ。久しぶりの神宮球場。雨中のヤクルト戦を振り返って「あのドローが…」となる可能性は高い。

そんな試合でマルテの同点弾同様に「よかった」と感じたのは負傷者が出なかったことだ。8回、オスナの打球を追った近本光司が外野フェンスに激突。顔を真っ赤にしていたがとりあえず大事には至らなかった様子だ。5回もヒヤリとさせる。ルーキー中野拓夢がヤクルト・スアレスから後頭部に死球を受けた。こちらも事なきを得たようで試合出場を続けた。

近本は言うまでもなく、佐藤輝明が抹消される中、新人離れした働きを見せている中野もきわめて重要な存在だ。どちらかが欠けるようなことになれば一気に暗雲が垂れこめる。

それでなくても試合前から妙なムードだった。甲子園に残って調整を続けている西勇輝が「寝違え」を理由に登録抹消されたのだ。西勇はこの日の昼間、室内練習場で笑顔を見せながら調整していた。その後に昼寝して寝違えたのか。それとも痛みを我慢して練習していたのか。

経緯はよく分からないが寝違えは不可抗力だろうし、仕方がない。そう書いた後で、それでも言いたくなるのは「気ぃつけてや」ということだ。指揮官・矢野燿大からエースと位置づけられる存在。次回登板予定の17日は中日大野雄大とのエース対決のはずだった。

この時期、こわいのは故障だ。今やってしまうと取り返しがつかない。ここまで来て、戦力ダウンは絶対に避けたいのだ。突出した選手がいない中で、ここまで首位を走ってきたチームだけに余計に思う。

03年の15日は広島戦で闘将・星野仙一がサヨナラ打を放った赤星憲広を抱きしめた日、言うまでもない優勝記念日だ。矢野阪神では1年目(19年)の同日は巨人に負けて優勝の可能性が消えた「終戦記念日」。昨年同日はやはり巨人に負け、ライバルに優勝マジックを点灯させた日となってしまった。

そして今季はその日を首位で迎えるのだ。ついにこんなときがやってきた。三つどもえの一角、2位ヤクルトを相手にどんな試合を見せるか。それにしても、しんどい試合だった。だがしんどいのは当たり前。歓喜のゴールを切ったとき、指揮官が「しんどかった~」と心の底から吐き出せばいいのだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)