先日のこと。宜野座のサブグラウンドからブルペン方向にリラックスした様子で戻ってくる藤浪晋太郎と岩貞祐太を見かけた。5メートルぐらい離れた規制線を挟んで「ういーす」とあいさつする。2人も「ちわーす」。原則、個人的な会話は禁止だけどマスク越しに「夜は何してるん?」。つい、聞いてしまった。

なにしろコロナ禍の厳戒キャンプである。外食はもちろん、外出もほとんどできない。自室でどうやって気分転換、息抜きをするかは大きなテーマだ。

すると岩貞が「彼は本を読んでますよ」と藤浪を指さす。そう言えば「嫌われた監督」を読んだらしいという情報は以前に仕入れていた。日刊スポーツの後輩でフリーになった鈴木忠平が中日担当記者時代に取材した落合博満について書き、好評な作品だ。

「なかなか面白かったですよ」と藤浪。「そうなんや。藤浪くんが引退したら、本、書くわ」。そう返すと「ぜひ。でもボクなんか、たいしたこと書けないですよ」と苦笑した。

そんな寂しいこと言うなよ。心の中で思った。早いもので高卒10年目。近年は制球難からの不振に苦しみ、パッとしない。入団から3年連続で2桁勝利という輝かしい成績は過去のものになりつつある。

大阪桐蔭で春夏連覇したのはさらに古い話だ。とはいえ、この世界はみんな、高校球児出身。そのみんなが目指した甲子園で超人的な結果を残した記録は残る。野球人なら誰もが一目置く存在だ。しかし「甲子園のスター」でもプロで活躍できなかった人はいくらでもいるし、苦しい日々である。

消えゆく花火なのか。正直、そう思うこともある。けれど確かに言えるのはプロ選手がデビューから引退まで順風満帆ということはあり得ない。高さの違いはあってもカベにぶつからずにレジェンドになった人間はいないのだ。

この日の練習試合。初回、日本ハムのバント攻撃に動じず、若い選手たちを相手に見下ろすような感じで投げていた。“持ち味”の死球も出たが、いつもこういう感じで投げればいいのに…と思ってしまった。

年齢的にもこちらが藤浪のドキュメントを書くことはないだろうし、後輩に任せる。タイトルは「ビビらせた投手」か。とにかく山あり谷ありの野球人生。もうひと花もふた花も咲かせて、虎党を喜ばせてほしいと強く思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

1回裏日本ハム無死、藤浪は上野のバント作戦を抑え投ゴロに仕留める(撮影・加藤哉)
1回裏日本ハム無死、藤浪は上野のバント作戦を抑え投ゴロに仕留める(撮影・加藤哉)