「ちょっと泣きそうですね。正直、ホッとしました」。神宮球場から遠く離れた甲子園の阪神球団事務所で営業担当の河内英人が喜んでいた。連敗ストップはもちろんだが、そこまで喜ぶのには理由がある。新たなビジター・ユニホームでの初勝利となったからだ。

開幕前から阪神の新しいユニホームは特にビジターのものが虎党はもちろん、プロ野球ファンの注目を集めていた。「かっこいい」「パドレスのに似ている」「パドレスが阪神のに似せてきたんや」などと言われながら評判だった。

元広報で現在は営業担当の河内は新しいユニホームの選定、採用に携わった。昨季までのグラデーションから一新。キャンプから選手にも「いいね」と好評で実際にレプリカの売り上げも上々だった。

ところが-。前日までまさかのビジター12連敗。注目を浴びていたユニホームで1勝もできていなかった。この負けっぷりは球史的に見ても異常事態である。そんな中、河内たちもひそかに苦しんでいた。

「関係ないじゃないかと思われるかもしれませんけど、やっぱり戦うための服、ユニホームを新しくして勝てなかったら責任を感じてしまうんです。現場ではないけどボクらもいっしょに戦っている気持ちと言ったら笑われるかもしれませんが…」

なるほど。首脳陣、選手でなくても「阪神が、阪神が」と言われれば気持ちはそれはよくないだろう。なにより虎党がスッキリしないのだから同じ組織の一部、ましてや“戦闘服”に関係しているのなら当然かもしれない。

そんな思いも乗せた、いい勝利だ。内容は今季ベストだろう。青柳晃洋、大山悠輔、佐藤輝明、ロハス…。投げるべき人が投げ、打つべき人が打ち、同時にしっかりと守った。いつも書くが監督がやめるどうこうは関係ない、選手が実力を発揮すれば戦える…という試合である。

もちろん指揮官・矢野燿大もあきらめてはいないだろう。12球団の本拠地で試合後のファンの声がもっとも届く神宮の三塁側前。今季初めて、そこを歩き「勝つことで喜んでくれるというのをあらためて実感できた」と話した。ここから巻き返すことができれば、それこそ球史に残る「伝説」になる。もちろん、そんなに甘くないとは思うが、ほんの少し、今後に期待を持たせる快勝だ。(敬称略)

ヤクルト対阪神 完封勝利を挙げ喜ぶ阪神青柳(後方中央)ら(撮影・野上伸悟)
ヤクルト対阪神 完封勝利を挙げ喜ぶ阪神青柳(後方中央)ら(撮影・野上伸悟)