石井大智が頭部に打球を受け、戦線離脱した6月6日のこと。その朝、阪神ナインは札幌・新千歳空港からの便を利用している。前日までの日本ハム3連戦に勝ち越し、交流戦2カード目、いわゆる“移動ゲーム”のナイター、オリックス戦を甲子園で戦う前だ。
早割で安いチケットが取れていたので、こちらもたまたまその便に乗った。出発ゲートを越えて機内に乗り込むまでの間、ボーディング・ブリッジというのか、そこでしばらく待つ。そのとき、近くにいたのが石井と及川雅貴だ。
チラッと聞こえてきた会話が面白い。及川が「明日(7日)ナイターですね」と石井に言うと石井が驚いた様子で「えっ!? そうなの?」と驚いた。6月中の土曜はデーゲームだったが7日だけはナイター。確かにイレギュラーな日程だ。
「知らなかったんですか? 言わなければよかったなあ」。いたずらっぽく言う及川に石井は苦笑していた。そんな会話の途中、及川がふと気づいたように自分が持っていた紙袋を開けて石井にこう声をかける。
「お土産は買いましたか? まだ小さいから、これは食べられないかな? でも、どうぞ」。そう言ってお菓子の箱を石井に渡した。石井は「そうだね。まだだけど。でも、ありがとう」。ニッコリ言って、受け取っていたのである。
22年のシーズン前に結婚した石井には昨年9月に赤ちゃんが誕生。それを知る24歳の及川が、後輩なりに気を使ってのコミュニケーションだったのだろう。自分の買った土産を同僚にプレゼントするとは、なかなか心優しいと思った。
こんな話を書いていいかどうか少々迷ったけれど、阪神の強力ブルペンをあずかる重要なピース2人の関係がほほえましいと思ったので、少しだけ-。
その夜、石井は大変なことになる。選手、関係者は沈痛な面持ちだった。幸いにもその後の経過を見ると大けがというか大事には至らなかったよう。それでも指揮官・藤川球児は「頭だけに慎重に。先のことは本当に分からないですね」と話し、最悪、今季は起用できない可能性を覚悟している様子もあったのだ。
しかし彼は帰ってきた。甲子園の大声援が歓迎。自身も6回に登板した及川もベンチから真剣な表情で見守っていた。頼れるブルペン陣で阪神は接戦に勝利。派手さはないが意味ある1勝だ。(敬称略)
【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)




