「お守り、追加しよか?」。試合前、ちょっとしたタイミングで近本光司にこう声をかけた。少しだけ説明させていただく。近本が阪神に入団以来、ずっと渡しているお守りがある。大阪・豊中市にあり、阪急電車の駅名にもなっている「服部天神」のそれだ。

同天神は日本で唯一の「足の神様」とされる。ガンバ大阪が参拝するなどスポーツにも縁が深い。たまたま、以前から宮司と親交があることで特に足を重要視する選手に足のお守りを渡している。近本もそうだ。

人気選手だけにこの種のものは知人、ファンらからいろいろ渡されるだろう。それでも毎年、宜野座キャンプで手渡すと、いつも「ありがとうございます」と丁寧に受け取り、すぐ自身のデイパックにつける。なんというか、こういうところが「大人だな」と思う。今でこそ30歳といういい年齢になったけれど最初からそういう姿勢だった。

その近本は現在、安打が出ない状況に陥っている。この日も5打席でヒットがなかったので35打席連続無安打と自己ワーストを更新。入団以来、コンスタントに打ってきただけに思うところはあるだろう。

調子自体もそうだし、正直、疲れもあるのは言うまでもない。それでも今、体調、コンディションについて、どうこう聞いても仕方がない。冒頭に書いたようにお守りを追加しようか、などと雑談するだけだ。

それに彼がどう答えたのか。冷静な様子で少し考えた後、こんなことを口にしたのである。

「いえ、今あるもので十分です。ここまでやってこれているんで。トータルでみないといけません」

長いシーズンだ。常に好調ということはあり得ない。ここに来て不調、不振に陥っている。それでも、少なくともここまではしっかりやってきた。そういう自負があるのだと思う。

もちろん最多安打のトップをひた走る男としてプライドはあるはず。それでもムダに焦ってはいないということだ。「足るを知る」と言えばいいのか、そういう感じである。無安打だがこの日は3四球を選んだ。そして2度、ホームを踏み、接戦勝利に貢献した。

1点差勝利でマジックは1桁の「9」となり、歓喜の瞬間は近づく。跳ぶ前にはしゃがまなければならない。V決定の後、待ち受ける短期決戦で再び暴れるためにも、今はしばし、我慢の時期かもしれない。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)