主砲が甲子園を沸かせた。日本文理(新潟)は9-5で鳴門渦潮(徳島)に打ち勝ち、2回戦進出を決めた。県勢、同校にとっても3年ぶりの初戦突破は1回、3番川村啓真右翼手(3年)が左中間に先制2ランを放って流れをつくった。川村は2回と8回にも適時二塁打をマークし、5打数3安打5打点と大暴れ。伝統の強打を体現し、今大会で勇退する大井道夫監督(75)に甲子園通算12勝目をプレゼントした。16日の2回戦では第3試合(午後2時半開始予定)で、仙台育英(宮城)と対戦する。

 満員札止めの4万6000人観衆が見守る中、左打席の川村が放った打球は、逆方向の左中間スタンド中段まで飛び込んだ。1回1死一塁、先制2ランの大歓声を浴びながら、二塁に向かう途中で右手を力強く握りしめた。

 「ベルトの高さの直球。変化球でボールが続いたので真っすぐが来ると」。読み通りに捉えた1発は、高校通算40号。「感触は良かった。あとは『入ってくれ』って」。甲子園の自身初打席で360度、見渡す限りの観客。「こんなにたくさんの人が見ているのかと思うと、うれしかった」と、高揚感に浸った。

 日本文理は新潟大会6試合、すべて初回に得点している。甲子園でもその継続がリズムをつくる。川村は「だから初回、絶対に得点したかった」。勝負どころにはめっぽう強い。新潟大会決勝の中越戦では、8回に左翼席へ決勝2ラン。逆方向への1発は、前回に続いて生涯2本目だ。

 主砲の一振りが打線の導火線に火をつけた。1、2回までに9安打7得点で7-0と大きくリードした。終わってみれば16安打9得点。川村は2回に右翼線への2点打、8回には中越えへ、2本の適時二塁打を放った。計3安打5打点を荒稼ぎし、「逆方向を意識し、つなぐ打撃を徹底してきた」。結果的に長打3本だが、それもつなぐ意識が土台にあったからだ。

 準優勝した09年夏は中京大中京(愛知)との決勝で、4-10の9回2死から5点を奪う粘りを見せ、球史に残るドラマを演じた。川村はその最終回の動画をスマートフォンに入れてある。大阪入りしてからも見て、気持ちを高めた。「先輩たちの野球を受け継いで、全国制覇をする」。その第1歩を踏み出した。

 大井監督は「左投手の対策しかしてこなかったからね。だから右投手が出てきたら打てなかった。これは私の責任」と笑った。4日の抽選で対戦決定から、鳴門渦潮・河野成季(3年)の攻略に集中した。打撃投手はベンチ外の菅家陸矢(3年)ら左腕が毎日務めた。マシン打撃も左にだけ設定した。鳴門渦潮の2番手右腕、鈴江竜飛(2年)からは2得点だったが、河野攻略には成功した。

 指揮官は何より、ナインの思いがうれしかった。「私に1勝をプレゼントしようという気持ちが伝わってきた」。負ければ監督生活が終わる。1日でも長く、一丸になって野球を続けるのがチーム全体の願い。川村は「1つでも多く、監督のために勝ちたい」。初戦突破でその思いは一段と強くなった。【斎藤慎一郎】

<新潟県勢の夏甲子園本塁打アラカルト>

 ◆ランク35位 通算19本目で、47都道府県ランキングでは長野、佐賀と並んで35位タイ。1位は大阪の128本、最下位は富山の9本(12日現在)。

 ◆2ケタ弾 準Vに輝いた09年から日本文理勢が続いており、通算11本塁打。

 ◆1試合2発 3度目。日本文理は前回出場の14年も初戦(1回戦)の大分戦で2本塁打。