第99回全国高校野球選手権(甲子園)は23日、花咲徳栄(埼玉)の初優勝で幕を閉じた。悲願の白河越えを狙った東北勢は、同校初の夏3勝を挙げた盛岡大付(岩手)、3回戦で春王者の大阪桐蔭を撃破した仙台育英(宮城)の8強が最高。全国制覇の壁は厚く、悲願達成は第100回大会に持ち越された。記者とデスクによる座談会形式で、今大会を振り返ります。

 デスク(以下デ) 今年も白河越えはできなかった。それにしても、決勝で負けたけど広陵の中村奨成捕手(3年)の本塁打はすごかったな。

 記者(以下記) 今後も破られない不滅の記録だと思います。聖光学院(福島)、仙台育英はあの中村1人に負けたといっても過言じゃありません。

 デ 聖光学院戦の9回に中村が放った本塁打は圧巻だったな。

 記 0-2の3球目、外角高めのつり球を見事に持って行かれました。被弾したエース斎藤郁也(3年)は「あのコースをあそこまで運ばれたことは今までなかった」と脱帽しました。

 デ 見逃せないのは9回に中村が打席に立つ前に自然と沸き起こった拍手だな。

 記 甲子園はヒーローを求めているのでしょう。昨夏の東邦(愛知)藤嶋健人(現中日)の打席でも同じことが起こっています。東邦が、八戸学院光星(青森)との2回戦で、観衆を味方につけて9回に5点を奪い、大逆転サヨナラ勝ちをしました。

 デ 東北勢にもヒーロー候補はいたんだよな。

 記 盛岡大付の植田拓外野手(3年)は済美(愛媛)との3回戦で2本塁打を放ちました。9回の起死回生弾に続き、10回はダメ押し3ラン。無安打に抑えられた花咲徳栄との準々決勝で1安打でも打っていたら、展開は変わっていました。

 デ 仙台育英が大阪桐蔭に勝った試合も、9回裏2死満塁ではタオル回しが行われていた。

 記 甲子園は負けているチームを応援する、浪花節的なところがあります。準々決勝は大阪桐蔭を倒した仙台育英に対する応援よりも、広陵の中村の本塁打を期待する声援が勝っているように感じました。

 デ 勝ち上がる戦力は大前提で必要だが、甲子園の観衆を味方につける戦い方も必要ということか。

 記 結局、甲子園に住む魔物をつくりあげているのは、観客だと思っています。東邦にサヨナラ負けした八戸学院光星のエース桜井一樹(現東北福祉大)は試合後、「全員が敵に見えた」というコメントを残しました。試合のムードを大きく左右するのが、観客の声援です。日本高野連は今夏から、応援団のタオル回しの自粛をお願いしました。

 デ 東北勢の泣きどころは、応援というところになるな。

 記 その通りです。東北勢は甲子園に生徒を送り込む交通費だけでも、多額のお金がかかります。甲子園から遠い、物理的ハンディは避けて通れません。近畿勢の彦根東(滋賀)の満員のスタンドは真っ赤に染まりました。そんなアウェーの中で青森山田は初戦を突破したんです。

 デ 第100回大会を東北勢が勝つには、当然スター選手が必要だけど、それ以上に応援の力も必要ということか。

 記 盛岡大付は今夏、吹奏楽部の部員を8人から30人以上まで増員し、今春のセンバツ以上の応援を展開しました。明桜(秋田)には大音量のブラスバンドの後押しがありました。2-14で大敗したものの、温かい拍手が注がれました。

 デ ファインプレーや全力疾走、健闘したチームには拍手が自然と起こった。

 記 甲子園は温かい場所なんです。必死にプレーする選手が応援されます。両側アルプスは当然、自校を応援しますが、どちらにも属さない“無党派層”を巻き込んでいく戦い方を研究していく必要がありますね。(構成・高橋洋平)