中越が日本文理に9-3で逆転勝ちした。甲子園にはつながらない独自大会だが、夏は2年ぶり12度目の優勝だった。0-3で迎えた4回に一挙6点を奪って逆転。この回先頭の主将・広瀬航大二塁手(3年)の右前打を口火に5長短打、四球、野選などを絡めて試合をひっくり返した。勢いを得たチームは19安打の猛爆ぶり。3回までに3点を失った先発のエース佐藤旦有夢(あゆむ)投手(3年)は被安打8の3失点ながら、11奪三振で9回完投した。

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中越は優勝にかける、すさまじいエネルギーを一気に放出した。0-3で迎えた4回裏だ。「ワンサイドを覚悟した」と本田仁哉監督(43)の脳裏に大差負けさえよぎった劣勢を、この回先頭の広瀬が打開した。「何としても流れを作りたかった」という右前打が逆転劇の幕開け。5長短打を集中させ、小技もさえた。2-3と1点差とした1死満塁では中野太陽遊撃手(3年)のスクイズバントが相手投手の野選を誘った。一挙6得点であっという間に勝利の軌道に乗った。

「『厳しいな』と思っていた」と本田監督が振り返る序盤の3点ビハインドから、1本の単打で攻勢に転じさせた広瀬はベンチの言動でも際立っていた。「広瀬は『行ける、行ける。我慢、我慢』と私が言わなければならないことを言ってくれた。監督以上の存在」と本田監督は言った。決勝の先発オーダーは3年生だけのラインアップ。3年生メンバーが相談しながらポジションも打順も決めた。優勝しても甲子園にはつながらない独自大会。「この年のこういう大会は3年生が力を出し切って負けたら、仕方がない」と新型コロナ禍を乗り切って練習してきた3年生に本田監督は賭け、正解を引き出した。

昨秋県大会は8強止まりだった。夏の甲子園は県内最多の11回出場の名門だけに「この代の野球部は弱い」と周囲に言われ続けた。周りの声は最上級生を冬場の熱心な練習に突き動かす原動力になった。「何としても見返してやろうと、闘争心が生まれた」と広瀬が言う反発心も強い気持ちを養うのに役立った。「技術も、気持ちも弱い面があった」と広瀬は話したが決勝での逆転優勝と、19安打は技術、精神面とも強さを身につけた証明になった。

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、5月20日に全国高校野球選手権の中止は決まった。学校は休校期間だったが、その翌日に本田監督は野球部員を招集した。「あの時の選手の涙、表情は生涯忘れない」。そう振り返る指揮官はその日、選手たちとひとつの約束をした。「この出来事を10年後、20年後に『みんなで乗り越えたから今がある』と言えるような出来事にしよう」。甲子園につながらない、独自大会の優勝でナインは苦境を乗り越えた。広瀬は「甲子園がない異例の年だけれど、その年の県大会優勝チームのキャプテンをやっていたと胸を張って言える」。優勝の瞬間は「号泣した」という顔はもう、晴れやかだった。【涌井幹雄】

 

▽2番・酒井龍聖三塁手(4回裏2死満塁で勝ち越し三塁打)「打った瞬間、長打を確信した。チャンスで打ててうれしい。中越で頑張ってきて良かった」

 

▽9番・中野太陽遊撃手(4回裏2死満塁で同点のスクイズ)「1球目を空振りし、その後、ベンチから(スクイズの)指示が出た。気持ちで食らいついた。自分の持ち味を最高の舞台で出せた」