<高校野球長野大会:飯田OIDE長姫8-6飯田>◇8日◇2回戦◇しんきん諏訪湖スタジアム

飯田対決となった第1試合は、試合前から小雨が降っていた。本部室付近に両チームの主将が集まると、この試合の花井弘樹球審(35)が言葉少なくあいさつした。

「このカテゴリーで最後の試合になるかもしれません。試合ができるのは相手があってのことです。相手を尊重して精いっぱい試合をしてください。それ以外はありません」

飯田OIDE長姫の主将・熊谷雄大捕手(3年)は試合後、このあいさつを「最後の試合になるかもしれないと言われ、胸に残りました。今まで試合前に審判の方に話をしていただきますが、あんなあいさつは初めてでした。フェアに戦おうと思いました」と、印象に残った様子で振り返った。

花井球審は試合前、自身も長野工で野球に取り組んだ経緯を簡単に説明した。19年には国際審判員になり、キャリアは15年を超える。「今まで感じてきたことを話させてもらいました」。実は2003年夏、長野工は第85回甲子園大会に初出場しており、花井球審は4番ショートで出場した。初戦の智弁和歌山に1-6で敗れた試合で自身は二塁打を含む2安打。球児が夏にかける思いを知る先輩として、率直な思いを両主将に伝えていた。

花井球審のあいさつの後には、コロナ対策で注意すべき事項などの連絡事項もあり、約10分で両主将はその場を離れた。

試合後、負けた飯田の宮下智貴外野手(3年)は、その場面をこう振り返った。「僕は試合前に審判の皆さんから話を受ける時、話している人の目を見るようにしています。それは、目を見ていると、その人がどんな気持ちでいるのか、分かる気がするからです。中にはソワソワしたり、緊張する方もいます。今日の球審の方は落ち着いていて、話した内容も聞いていて感じるものがありました。夏の大会に関わっている人はみんな一生懸命にやってくれました。今日はいつものように、試合のことだけを考えて、自分のプレーに集中しようと思いました」。

「最後の試合になるかもしれない」「相手があって試合はできる」。花井球審の言葉には、この試合に、そしてこの瞬間のプレーに、すべてを注ぐ高校生部活動全般に共通するものがある。【井上真】