兵庫大会1回戦で、「急造投手」が193球で9回を投げ抜いた。明石高専・安田陸投手(3年)が姫路商に15安打を浴び、味方の失策などで大量点を失うも12失点完投した。部員13人のチームで、春季県大会で遊撃から投手に転向。背番号1の責任感で高校最後の試合を熱戦にした。

自然に「よっしゃ!」と声が出た。「もともと声出すとか、元気出す系のキャラじゃなかった。でも…」と安田。熱戦は、今まで知らなかった自分の姿を見せてくれた。

仲間から「投手になって」と言われたのは昨秋。チーム内でも能力の高い選手だったが、すぐに首を縦に振れなかった。投手経験がないうえに、チームを背負う覚悟も荷が重かった。だが坂田晨(しん)主将(3年)から「勝とうぜ」と言われた。信頼に応えようと思えた。投げて走って体力を作り、憧れのオリックス山本が取り組むジャベリックスローも取り入れた。制球力を向上させたい一心だった。

この日、中盤からは酷暑との戦い。「変化球を投げる力がなくなって。息も全然おさまらなくなって」。12人の仲間の“二十四の瞳”が支えだった。「まだ行ける、頑張ろうぜって、みんなに背中を押してもらえた」。打っても4安打2打点で、6回は味方の三塁内野安打で二塁からホームへ激走。だが9回、肩で息をしながらの打席は空振り三振で最後の打者に。「勝ちたかった」。泣きながら地面をたたいた。

「顔色、息づかい見て、迷ったんですけど、代えたら恨まれるなと。彼が納得して終わらせたかったんです」と後藤太之監督(47)はねぎらった。安田はナインの信頼に応え、力を振り絞った。1イニングを投げ終えるたび、ボールを丁寧にマウンドに置いた。全力を出しきり、忘れられない夏にした。【堀まどか】