<全国高校野球選手権:熊本工3-2鳥取城北>◇9日◇1回戦

 熊本工が待望の4番復活で初戦を突破した。県大会では不調で準々決勝から代打にまわった工藤誠也内野手(2年)が4番・三塁でスタメン出場。ソロ本塁打を含む3安打2打点の活躍で打線を引っ張った。これで熊本工は夏29勝目。次戦、15日(第8日第2試合)に節目の30勝を挙げる。

 これぞ4番というアーチを甲子園の青空に描いた。3回、熊本工の工藤は内角の落ちる球を左翼席へ。「感触は覚えていません。打球が見えなかったが、歓声で入ったと思いました」。会心の笑顔でダイヤモンドを1周した。

 初回には1死一、三塁から、三遊間を破る先制適時打。6回には低いライナーで中堅右を破る二塁打だ。3安打2打点の大暴れ。夏20回の出場を誇る名門の主砲にふさわしい活躍だ。

 1度は4番失格の烙印(らくいん)を押された。県大会では極度の打撃不振。3試合10打数1安打で準々決勝からスタメンを外された。昨年、1年春の九州大会から三塁手としてレギュラーを獲得。昨秋からは不動の4番だった。「てんぐになっていました」と、心に隙が生まれ、人の意見をあまり聞かなかった。控えに回った後、転機が訪れた。先輩に助けられたのはもちろん、他校のライバルにも救われた。心配のメールが続々と来たのだ。ベンチ外の2年生にも支えられた。居残り打撃練習を手伝ってくれた。「最近『感謝』って言葉が好きなんです」。心身ともに成長した。

 県大会決勝では代打で途中出場し延長10回に、中前へのポテンヒットで決勝打を放った。大阪入りした後の練習では「迷いがなくなった」と急激に打撃の調子を上げてきた。林幸義監督(66)は「甲子園では工藤を4番に戻す。ほかにいない」と本人には当日まで伝えなかったが復帰を決めていた。

 前日8日の夜、工藤は買い物に出た。3店探し「やっと見つけた!」とマスカット味のこんにゃくゼリーを購入した。決勝打を打った県大会決勝の日にも食べていたからだ。この日も球場へ向かうバスで食べ、結果を出した。帽子にはもう1つの大好きな言葉「円」を書き込んだ。「チームが1つになるように」-。どん底を味わった2年生スラッガーが、聖地で真の「熊工の4番」になった。【石橋隆雄】

 ◆工藤誠也(くどう・せいや)1996年(平8)6月9日、熊本市生まれ。池上小4年から同小のクラブチームで軟式野球を始める。三和中では軟式野球部に所属。熊本工では1年春の九州大会からサードでレギュラー。この日の本塁打で高校通算8本目。目標の打者は中田翔(日本ハム)。好きな言葉は「感謝」。右投げ右打ち。172センチ、70キロ。血液型O。