<全国高校野球選手権:木更津総合3-1西脇工>◇16日◇2回戦

 木更津総合(千葉)は、先発の千葉貴央投手(2年)が右肩痛のため6球で降板したが、緊急登板した2番手笈川翔太投手(3年)の好投で、創部初の16強進出を果たした。

 慌ただしく、三塁側ブルペンで10球立ち投げしただけの木更津総合の左腕笈川が、初めて甲子園のマウンドに向かった。1回。先発の千葉が、初球からスローボールしか投げられない。3球目92キロ、4球目93キロと、右肩に激痛が走り、6球投げて打者1人から三振を奪っただけで降板した。

 笈川は、試合前のブルペンから直球が投げられない千葉の異常を察知していた。緊急登板だったが、「肩は全然できてなかったけど、気持ちで押しました」と3年生の意地がある。

 県大会は背番号「1」を背負ったが、準決勝、決勝と完投した千葉にエース番号を譲った。「千葉が1番にふさわしい」と認めるが、大阪入り後も連日120球投げた。愚直に練習を続け、チャンスを待った。

 1回を無失点で切り抜けると、スピードが違う2種類の宝刀スライダーを低めに集め続けた。9回2死満塁のピンチは4球連続のスライダー勝負で一塁ゴロに切った。「自分の一番自信のあるボールで勝負したかった」。9回は22球中17球、全117球中81球がスライダーだった。

 新チーム結成時は、4番手投手だった。消防士の父芳徳さん(49)は「息子は雑草ピッチャー」と言う。170センチと上背はなく、直球も130キロ台前半。調子を崩した昨秋はブルペン投球も禁じられた。1人で、ネットに張ったタオルを目がけて1日300球投げ続けた。

 試合中、降板した千葉はベンチで涙を流していた。笈川は「オレが次、もう1回投げさせてやる」と声をかけた。制球力を磨き続けた心優しい左腕が、創部初の甲子園2勝の立役者になった。【前田祐輔】