阪神が代打原口文仁捕手(26)のV打で連敗を4で止めた。0-0で迎えた6回2死満塁、内角球にバットを真っ二つに折られながら左翼線へ2点適時打。折れたバットは三塁側スタンドへ、打球は三塁線上から“スライス回転”でフェアゾーンへ。まさに執念が乗り移ったような一打で、今季のDeNA戦は負けなしの5連勝とした。

 漫画ドカベンの世界が現実の甲子園に出現した。阪神原口文仁捕手(26)が“秘打”で決勝点をたたき出した。6回2死満塁。板山の代打で登場した背番号94。カウント1-1からの3球目だった。剛腕エスコバーの148キロは胸元をえぐる明らかなボール球。「しっかりと直球を狙ってスイングできた」と、強引に振り抜いた。白木のバットは根元からボキッ。折れた先は三塁側ベンチ上にスタンドイン…。打球はハーフライナーとなって三塁宮崎の頭上を越え、左翼前に落ちた。

 打球の軌道に目を疑った。詰まったことで、完全なファウルグラウンドから大きく“スライス”してフェアゾーンに戻ってきた。原口は「それは自然と…。いいところに飛んでくれてよかったです」と笑った。金本監督も「最初、ファウルゾーンに飛んだみたいで中に入ってきて。それもバットの出がいいから、ということにしておきましょうか。詰まっても力で押し込むというか、そういう打撃」と驚きながらも称賛した。

 秘打を得意とする殿馬らが活躍する漫画ドカベンと同じように、帝京高校で甲子園を沸かせた原口。阪神では育成選手に落ちて、支配下選手に戻り、4番も務めたサクセスストーリーを持つが、今はレギュラーではない。これが今年の初打点。「試合に出ないことが多かったけど、気にせず、集中して準備しようと心がけていた」と話した。

 汗はウソをつかない。キャンプや遠征先には複数の打撃手袋を持ち込む。「破れるし、汗でびちゃびちゃになる」と使っては干しての繰り返し。この夜のような勝負の一振りをイメージして、誰よりも強く、バットを握りしめてきた。阪神屈指の努力の男は「勝負どころと思って打席に立ちました」と言い切った。快投のメッセンジャーを救って、チームの連敗も4でストップ。原口の執念が実った。【柏原誠】