虎の生え抜き大砲候補とは-。元阪神で関西独立リーグ・06ブルズのコーチを務める桜井広大氏(36)が18日、電話取材で古巣の後輩たちにエールを送った。現役時代は待望の生え抜き長距離砲と期待されながらケガにも苦しみ、28歳で縦じまを脱いだ。その裏側に隠された苦悩とは? 同じ漢字の名前を持つドラフト2位井上広大外野手(18=履正社)ら、新たな生え抜き大砲候補たちへの願いも言葉に変えた。【取材・構成=佐井陽介】

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桜井氏は当時の記憶をよみがえらせ、「悩みましたね…」とつぶやいた。

09年のことだ。打率3割2厘、12本塁打。キャリアハイを残した代償として、右肘が末期的な状態に陥った。靱帯(じんたい)断裂。同年オフに本格的な手術を勧められたが、断った。

「リハビリで1年も棒に振るのが、どうしても無理だったんです。焦りがすごかった」

保存治療では良化せず、10年オフに簡単なクリーニング手術を受けた。それでも痛みが消えないまま、11年オフに28歳で戦力外通告を受けた。「焦りは禁物でした。靱帯再建手術を受けた方が良かった」。今ではそう結論づけられる。

09年はまだ26歳シーズン。それでも焦らざるを得ないほど、周囲からの期待値が高かった。虎の生え抜き大砲候補-。そんな枕ことばが桜井氏を徐々に追い詰めたのかもしれない。

高卒6年目の07年、1軍初出場からブレークした。この1年を境に、自身を取り巻く環境が一変した。

「僕は他球団でやっていないので、それが特別かは分からないけれど。阪神は目立つので。それは阪神の選手の宿命ですからね」

その一挙手一投足に注目が集まるようになった。監督、コーチにとどまらず、野球評論家、球団OBたちから次々に助言が届いた。

「期待して言ってくれているのだからと、あっちも聞いてこっちも聞いて。僕がもっと賢かったら良かったんですけどね」

窮屈を感じ始めた。持ち味の豪快さに歯止めがかかった。最後は不完全燃焼のまま縦じまを脱いだ。

「自分を100%出しきれたかと振り返ると、正直疑問が残ります。でも、そこを乗り越えられなかったのは結局、自分に力がなかったから。常に注目される阪神でも、結果を出す人は出していますからね」

桜井氏は静かに言った。

現在は関西独立リーグの06ブルズでコーチを務める。指導者の立場となり、過去の自分を反省した。「練習は『やらされる』ではなく『やる』でないとダメですね」と力を込める。

「僕みたいな三流選手は練習をやらされていました。もちろん、最初はやらされないといけない時がある。でも、やらされることが体に染みついてしまうとね…。賢い子は大丈夫だと思う。でも僕みたいに賢くない選手はダメでした。もっと自分で考えて練習しないといけなかった」

今、広島鈴木や西武森の練習を見聞きするだけでも「明らかに『やらされている』のではなく『やっている』」と感じるという。

「若い時は遊びたいし調子に乗ってしまうもの。それでも優先順位の1番に野球があれば遊びにもブレーキがかかる。プロ野球の世界は自己責任。誰も責任を取ってくれない。僕なんかが言うまでもないとは思いますが、今は自分をさらけ出していい時代ですし、思いきり自分を出してほしい。やらされるのではなく、やりたいようにやってほしいですね」

阪神では昨季、大山が開幕から4番を任された。高卒ドラフト2位の井上は今年3月のオープン戦・巨人戦で一躍脚光を浴びた。新たな生え抜き大砲候補にまた期待が集まっている。

「井上くんは同じ広大でも読み方は『こうた』なんですよね?自分と同じ『こうだい』だったら活躍できないかもしれない。『こうた』で良かったです」

桜井氏はそう冗談めかしながら、後輩たちが壁を乗り越えていく日を楽しみにしている。

 

○…桜井氏は現役時代の経験を糧に、06ブルズでも自主性を重んじる指導を続けている。「いつも『分からなかったら言ってな』と伝えています。無責任と思われるかもしれないけど、最後は自己責任ですから。どんなコーチでも百発百中はないと思いますしね」。06ブルズが所属する関西独立リーグは5月18日現在、新型コロナウイルスの影響で開幕延期が続いている。

 

◆桜井広大(さくらい・こうだい)1983年(昭58)7月1日、滋賀県生まれ。PL学園から01年ドラフト4巡目で阪神入り。1軍初昇格した07年に打率2割8分1厘、9本塁打。プロ通算308試合出場で打率2割7分3厘、30本塁打、116打点。11年オフに阪神から戦力外通告を受け、12年から四国IL香川でプレーして13年オフ現役引退。ルートインBCリーグ・滋賀の打撃コーチを経て、19年8月から06ブルズのコーチ就任。181センチ、95キロ。右投げ右打ち。