今年は10月11日に運命のドラフト会議が行われる。悲喜こもごも…数々のドラマを生んできた同会議だが、過去の名場面を「ドラフト回顧録」と題し、当時のドラフト翌日付の紙面から振り返る。
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<15年10月23日付、日刊スポーツ紙面掲載>
仰天の〝ビデオ判定逆転弾〟だ。「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」が22日、都内で行われ、阪神が東京6大学野球新記録の通算131安打を放った明大・高山俊外野手(4年=日大三)を1位指名した。ヤクルトと競合したが、くじを外したように思われた金本知憲新監督(47)が実は引き当てていたという珍事態が起こった。就任初仕事でドラマの主役となった。
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金本監督には、まさに地獄から天国だった。明大・高山を巡るヤクルトとの一騎打ち。開封と同時に真中監督が雄たけびを上げ、ガッツポーズを繰り返した。これを見た金本監督は、開封せぬまま苦笑いで肩を落とした。真中監督がインタビューに応じる傍ら、スカウト陣の待つ席に戻った。
だが、ここから異例の事態に発展する。NPB担当者が「確認のミスがありました」とアナウンス。よく見れば、金本監督が手にする右半分には「交渉権確定」の印字があった。真中監督が札の左半分にある「ドラフトマーク」を見て当たりだと勘違いしていた。
「あれだけ真横で喜ばれたらねえ。見ても仕方ないだろうと、見なかったんですけど。まさにビデオ判定の逆転ホームランでしたね。連盟の方から言われて。それまで全然、気付かなかったです。本当は自分が開いて、見て、よしというのをやりたかったんですけど、真中監督はね。ダメです…(笑い)」
高山は東京6大学野球の通算安打記録をつくった“完成品”とみられがちだが、金本監督はあくまで将来性ある素材と見ていた。「今すぐ使えるとか、そういう判断ではなしに。将来的に3、4番を打てる可能性がある選手ということで選びました。練習はきついですよ。しっかり体をつくってくるように。それをまず伝えます」。
高山との縁は、抽選箱の中で始まっていた。金本監督は左手で1度、手前の封筒をつかんだ。だが、少し考えた後、奥のものをつかみ直した。第六感が働いたのか…。競合を恐れず、素材重視で指名すると公言した前日、自らのクジ運を自虐的にこう話していた。「くじ運は弱い。本当に当たらん。まあ、当たらん。飛び賞なんかも必ず飛んでる(笑い)」。
だが、とてつもない強運ぶり…いや、運というより自らの意志でつかみ取った。大勝負ほど強さを発揮する。アニキ、恐るべし-。就任初仕事で他球団に強烈なインパクトを与えた。
★歴史的勘違い…真中監督「あのガッツポーズを返してください」
会見場に訪れた真中監督は、少し申し訳なさそうだった。「くじに、ドラフトのマークがあったのでOKだと思った。全く気付きませんでした」。歴史的珍事となった勘違いについて、ゆっくりと説明した。「あのガッツポーズを返してください」と、ため息をついた。
昨季に続き2度目のドラフト会議。左手でくじを引き、中身を開封した。右手にくじを持ち替え、両手で大きくガッツポーズを決めた。真中監督の視界に入ったのは、くじの左側に記してあるドラフトのマーク。「事務局の人から『これは真中監督のくじですか? 外れのものです』と言われたけど、よく分からなかった」。「交渉権確定」の文字は書かれていなかった。
午前中には、明治神宮に衣笠球団社長と祈願を行ったが、「ヤクルト高山」は幻と化した。仕切り直しで、東洋大・原樹理投手(4年=東洋大姫路)を1位指名。真中監督は、「140キロ後半の速球と球種も豊富にある。チームを引っ張ってもらいたい」と期待を込めた。一時は明大・高山を引き当てたと思いこんで、テレビインタビューで「慣れ親しんだ神宮球場で一緒に頑張ろう」と言った同監督。ハプニングのドラフト会議となった。
★NPBにも進行不手際…外れくじの白紙化「検討課題に」
高山の交渉権獲得球団が訂正される珍事は、真中監督の早とちりとNPBのミスが招いた。当たりくじは、開いて左側に「ドラフトマーク」が印刷され、右側に「交渉権確定」の判が押されている。この説明書は12球団に配布されていたが、同監督は引いたくじの「ドラフトマーク」を見て当たりくじと勘違い。ガッツポーズをしたことから、インタビューが始まってしまった。
この間にNPBが金本監督と真中監督のくじを照らし合わせ、阪神の当たりを確認した。本来ならば、くじをチェックした後にインタビューを始めなければならなかった。システム上もヤクルトの交渉権獲得と入力してしまったことから障害が発生。会議は約10分間中断した。くじの確認役を務めていたNPB井原敦事務局長は「インタビューを止めるべきだったが止められなかった。進行を止められなかった私の不手際です」と謝罪。再発防止に向け「(外れくじを完全に)白紙にはできると思う。今後の検討課題にした方がいいかもしれない」と話した。
★一方、指名される側の高山は…
わずか数分のうちに、戦いの舞台が神宮球場から甲子園に変わった。東京6大学リーグで131安打を放ち最多安打記録を更新する明大・高山俊外野手(4年=日大三)が阪神から指名を受けた。前日までにヤクルトが1位指名を公言。頭の中は神宮球場一色だったが、阪神と競合し確認ミスの末、日大三で11年夏に全国制覇した甲子園を主戦場とすることになった。連続試合フルイニング出場などの記録を持つ金本知憲新監督(47)のもと「息の長い選手になる」と誓った。
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予想外の事態に、テレビ中継を見守っていた高山は目を見開いて驚いた。交渉権を獲得したと思われたヤクルト真中監督からエールを送られたわずか数分後、今度は金本新監督に「一緒に頑張ろう!」と言われた。「やっぱり、何が起こるか分からないドラフト会議。本当に自分もよく分からない感じです」と、阪神が交渉権を獲得した直後は状況をのみ込むのがやっとだった。
明大・善波達也監督(53)から異例の“2度目の握手”を求められるとやっと表情を和らげ、息を吐いた。「競合していただいたのはびっくりしましたが、うれしい結果になりました。金本さんのように長く野球人生を歩めるような選手になりたいです」と、長く虎ファンを魅了し続けたアニキを早速目標に掲げた。
ドラフト指名から約3時間後、東京・府中市にある明大の寮で、駆け付けた金本新監督と初対面を果たした。「すごいオーラを感じました。感動しましたし、タイガースの一員としてやっていく気持ちが強くなりました」と目を輝かせた。技術面に関してもアドバイスを受け「強いスイングをして遠くに飛ばせと言われました。スイングスピードには自信があります」と言った。
日大三では3度甲子園に出場。11年夏に日本一になった際は、50メートル5秒8の俊足を生かして大暴れし、準決勝、決勝では2本塁打を放った。神宮球場で目下、東京6大学リーグの最多安打記録を更新する神宮のスターは甲子園の申し子でもある。「あんなにいいグラウンドで今からやれると思うとワクワクします」と思いを巡らせた。
中学時代の通知表はオール5に近かった。切り替えが早く負けず嫌い。分からないことについてはとことん追求する。「バッティングで監督の期待にこたえたいです」。高山の頭には金本新監督のゲキにこたえ、虎ファンに囲まれる姿が描かれていた。
○…右手有鉤(ゆうこう)骨を骨折している高山は、週明け26日にも骨片の除去手術を行うことになった。「金本監督にも心配していただきました。全治は分かりませんが、早く治したいです」。18日の慶大2回戦の打席で右手首に痛みを感じ、19日の3回戦を欠場。21日に東京都内の病院で骨折と診断された。24日に始まる法大戦の出場は絶望的となった。
◆当たりの勘違い 最近では3年ぶりに抽選が復活した05年高校生ドラフトで混乱が相次いだ。巨人、オリックスの2球団競合となった辻内崇伸投手(大阪桐蔭)の抽選で、オリックス中村GMがNPB印を当たりと間違え「当たった」とくじを掲げた。ガッツポーズを見た巨人堀内監督は「交渉権確定」のくじを持ちながらも「初めてのことだからよく分からない」と苦笑い。結局、辻内の会見後に確定球団が訂正された。陽仲寿内野手(福岡第一=現陽岱鋼)のくじは日本ハム・ヒルマン監督、ソフトバンク王監督が引き、ヒルマン監督が右手を掲げた。ところが王監督が「当たりはこちら」とばかりにくじを掲げて抗議し、確定球団は日本ハム-ソフトバンク-日本ハムと再訂正。意中のソフトバンクに当たったと思い込み感激の涙を流した陽は、日本ハムに決まると言葉を失った。
※記録と表記などは当時のもの



