広島のキャッチフレーズは毎回独特の世界観があり、話題を呼んでいる。近年ではシーズン終了後の11月下旬に実施される「ファン感謝デー」の終盤に来季のフレーズが発表され、毎年ファンを驚かせてきた。



【近年のカープのキャッチフレーズ】

22年 ガツガツGUTS!

21年 バリバリバリ

20年 たった今 このAKAの子 舞い立った

19年 水金地火木ドッテンカープ

18年 ℃℃℃(ドドドォー!!!)

17年 カ舞吼! Kabuku

16年 真赤激 Burn it up!

15年 常昇魂(RED RISING)

14年 赤道直火(RED ALL THE WAY)

13年 剣砥挑来(RALLYING TO ATTCK!)

12年 破天荒(GROUND BREAKERS 前人未踏)

11年 STRIKIN,BACK 逆襲

10年 We,re Gonna Win 俺たちは勝つ


【懐かしい…あの選手があのキャッチフレーズを掲げていた写真】>>


独自路線にかじを切ったのは、16年からだ。「真赤激 Burn it up!」を発表。チームからの「真っ赤」と「過激」を組み合わせた造語だ。唐辛子のロゴも加え、刺激的に仕上げた。選手育成が実を結び、長期の低迷脱出に光りが見えた時期。このシーズンに、25年ぶりのリーグ制覇で悲願を達成した。


さらに前衛的になったのが、翌17年の「カ舞吼! Kabuku」だ。文字は小さく、力強く伸びる矢印のデザインを前面に押し出した。「常識にとらわれない、変わった行動や身なりをする」という意味のある「傾く(かぶく)」を元に、「カープ」らしく「舞」い、「吼(ほ)」えながら戦っていく意味が込められた松田元オーナーは「斜め上を差す矢印が重要。課題をぶち破るように、違う力を発揮しないと」と力説していた。斬新なキャッチフレーズでチームはリーグ2連覇を実現した。18年は球団初のリーグ3連覇の意味も込められた「℃℃℃(ドドドォー!!!)」を発表。毎年のように、選手、ファン、報道陣の度肝を抜いてきた。


奇想天外ともいえるキャッチフレーズの狙いはどこにあるのか? 担当者は「遊んでいるように見えたりもしますけど、決して遊んでいるわけではないです」と言い切る。こだわったのは、「賞味期限」だった。「1シーズン、ファンの方々の中にキャッチフレーズとして頭に残っておいてほしい。大体は進んでいくにつれて薄れていってしまう。最後までファンの方々にも認識しといてもらえるようなものというのが一番です」と説明する。

通常キャッチフレーズはオフに発表し、キャンプからオープン戦、開幕まではメディアなどによる露出も多い。しかしシーズンが進むにつれて、印象は薄まっていく。球団は、インパクトのある言葉で、1年間を通して、強い印象を残すことを1つの目的とした。ファンと一体になって戦う広島らしさが方針に表れている。


キャッチフレーズは、毎年シーズンの成績や世の中の情勢などを踏まえた上で、テーマを決める。シーズン終了が近づく10月頃から、5、6人のチームを組み、テーマをもとに新たなフレーズを考え始める。21年の「バリバリバリ」に関しては、若手社員を20人ほど集め、それぞれ案を出し合いながら絞り込んでいったという。


19年の「水金地火木ドッテンカープ」については「耳障りが良くて、入りやすい言葉」がテーマだった。担当者は「三角関数の『サイン、コサイン…』とか、元素記号の『スイ、ヘー、リーベ…』とかも候補になっていた。世間一般になじみやすいものですね」。球界でも異例となった20年の回文「たった今 このAKAの子 舞い立った」については、「回文でやってみよう」という大前提があったことで生まれたものだ。


3年連続Bクラスからの巻き返しを目指す22年は「ガツガツGUTS ! 」に決定した。今回は松田オーナーの「貪欲に」という思いが込められ、即決だった。担当者は「大枠のテーマが先にあったので、今回は早かったです」と説明。21年に続き2年連続でシンプルな形となったが「たまたま」だという。


決め方は毎年変化するからこそ、新たな考え方や言葉が出現する。担当者は「アプローチの仕方は毎年変わってくる。そうじゃないと新しいものは出づらい。全く同じ形にしてしまったら、新しいキャッチフレーズは出てこないです」と話した。近年は球団職員が考えることが多いが、06~09年には当時監督を務めていたマーティー・ブラウン氏(58)が自らが発案した「ALL-IN」が採用されたこともあった。


デザインも毎年斬新で、独自のフレーズをさらに強調させる。最近までは外部に委託していたが「細かい修正だったり、毎日やりとりができる」と、3、4年ほど前から球団のグッズなどを手がけているデザインを専門とする数人の社員が担当となり、社内で連係して作り上げている。


毎年のキャッチフレーズをもとに作られる選手の登場シーンも名物となりつつある。スタメン発表や、選手がマウンド、打席に入る度にマツダスタジアムのバックスクリーンに映し出され、選手それぞれが個性のある動きを見せる。試合本番では見せない表情が多く、ギャップも楽しみの1つだ。


今後どんな独創的なキャッチフレーズが生み出されていくのか。毎年目が離せない。【古財稜明】