オレ流の人事査定が幕を開けた。12球団一早い中日の契約更改交渉が5日、名古屋市内の球団事務所で始まり、荒木や小田、堂上剛の3人が減額制限いっぱいのダウンでサインするなど厳冬の嵐が吹き荒れた。交渉役の落合博満GM(59)は、12年ぶりのBクラスやナゴヤドーム初の200万人割れを要因に挙げ、信賞必罰を明言。一方で岩瀬には目標500セーブとハッパをかけ、堂上剛らには交渉中に打撃指導を行うなど、イズム全開の交渉となった。(金額は推定)

 落合GMは不可解そうに言った。「それって不思議?

 不思議じゃないでしょ?」。7人更改してアップは400万円増の武藤1人だけ。しかも荒木は40%減で小田&堂上剛は25%と、初日から3選手に減額制限いっぱいのダウンを突きつけた。3人とも減俸幅はプロ入り最大。だがGMは毅然(きぜん)と「何位だったの?

 勝てば当然上がる。でも下がる時は下がる。全員納得して帰ったと思うし、間違った評価はしてないと思う。受け止めて来年頑張ればいいだけ」。まさに落合流の信賞必罰査定だ。

 12年ぶりのBクラス。観客動員も、97年のナゴヤドーム開場以来初めて200万人を割った。GMは「責任はみんなにある」と明言。かつて落合監督を胴上げしたV戦士も例外ではない。それが退団に発展した井端88%減の根拠でもあった。これまでの中日や他球団なら温情査定も加味され、ここまで厳冬交渉になっていないと思われる。だが落合GMはベテラン特権や、昨年3勝で3000万円アップの例もあったどんぶり勘定的な出来高制も廃止。シビアに実力と来季可能性だけを金額で表した。

 交渉は巧みな話術で選手の心をくすぐった。先陣の小田には「必要な選手だ」と訴えてから25%減を提示した。小田は「その一言でどんな額でもサインしようと思った。去年はその言葉がなかったので保留しました」と怒るどころか感謝の一発サイン。12年ぶりに規定打席を割った荒木には「何でこうなったんだ?

 まだまだできるんだからしっかりやれ!」と激励。あと18セーブで400セーブに届く岩瀬には「500まで頑張れ!

 老け込む年じゃない」。これには岩瀬も「信頼していただいている」と決意を新たにした。2年目のジンクスに泣いた田島にオフの過ごし方を説き、堂上剛と松井佑にはスーツ姿で打撃指導まで行った。

 12球団一早い契約交渉を決めたのはGMの発案だ。「11月の方がスムーズ。選手も(12月に練習で)動きやすい。理に反していれば変えなきゃ」。球界への提言も含んだ11月上旬更改。そして最後にこう言った。「オレは何年も契約をやってきた。年を越したことも調停したこともある。ハンコの代わりに母印を押したこともある。でも1つ言えるのは、この時期は野球をやってなくちゃいけないということ」。V奪回へ、ワールド全開のオレ流交渉は今日6日に続く。【松井清員】

 ◆減額制限

 野球協約第92条(参稼報酬の減額制限)には、契約更改の際に年俸が1億円を超える選手は40%まで、1億円以下の選手は25%を超えて減額されることはないと定められている。ただし、いずれも選手本人が同意すれば制限を超え減額することができる。

 ◆中日の年俸総額

 日本プロ野球選手会が発表する支配下選手の年俸調査結果(外国人選手、育成選手、出来高払い除く)では、最近10年で7度も12球団中の3位以内に入った。今年の平均5198万円は、巨人(6155万円)に次ぐ2位。DeNA(2467万円)の2倍以上になる。07年の総額31億7690万円は、12年連続トップの巨人(31億2596万円)を上回り、12球団最高額になった。